なぜ接着歯学なのか?

レジン修復

なぜ接着歯学なのか?

ビタミンBだけをみても、ヒトの身体において500種類以上の生体反応に関わっているといわれています。現在の人間の技術では他のどこにも影響を与えずに、目的のところにピンポイントで作用を働かせるということは出来ません。有機体自体が相互に複雑な関係を持っているので、有機体に手を加えるということは他の作用も必ず招きます。また、傷口を縫合して治癒を促す事は出来ますが、治癒自体は身体が行なってくれるものであり、そこもまた人間の力の及ばないところです。あらゆる反応の適切な配分は身体が行なってくれるものであって、今のところ人間が介入することが出来ないくらい複雑で緻密で正確でありながら不自由ではない素晴らしい機能です。

そのようなヒトの生体反応を壊さないようにするためには、なるべく自然な元の状態を維持する必要があります。そのためには歯科ではミニマルインタベーションによる低侵襲の治療を行うということが考えられています。そもそも、金属をふんだんに使った歯科医療は機能面にばかり注目していました。それは材料自体の性質の低さを補う工夫でもありましたが、現在では臨床応用に十分な機能が備わっています。有機体に手を加えるということへの配慮は、口腔から遠隔部にある何かしらの症状を招く可能性への配慮をするということであり、これからはそのことにも目線を向けてゆく必要があります。

以前は遊離エナメル質を残すことは将来的な破折を招くのでよくないとされ、内部の象牙質を失った部分のエナメル質も便宜的に削除されていました。そのことによって、虫歯の実際の大きさよりも歯質を失うということが受け入れられていました。金属の脱離を防ぐための維持機構を設計するためにも歯質の便宜的削除が行われていましたし、虫歯の予防ということで予防拡大という削除が行われています。

接着歯学の発展によって、健全な歯質は便宜的な削合を回避することが出来るようになりました。このおかげで、より多く残った生体の一部によって、生体機構の乱れを最小限に留めることができるようになりました。また、より多くの歯質の残存が将来的な歯そのものの保存につながる可能性を大きくしてくれました。おそらくこれよりも上流の保存が予防歯科になる訳ですが、予防歯科と虫歯の治療の間にあった大きすぎる歯を残す事への距離が、大幅に縮められた出来事でした。

この他にも、矯正装置の取り付けではバンドを巻く必要がなくなったので、コンタクト部の細かな調整が行えるようになりましたし、バンドカリエスのリスクも負わなくてよくなりました。入れ歯のリペアー(修理)も容易になり、接着さえ可能であれば作り直しする必要がなくなりました。近年ではインプラントの上部構造について、セラミックを使用しない方法の利点が注目されてきていますが、その際もリペアがその場で出来るようになります。

この技術の発展はその他の歯科の分野と比べても大きなインパクトがありましたが、派手さがないのと誤解が多かったため出鼻をくじかれて発展が遅くなったということもありました。

誤解

接着歯学の発展により臨床は大きく変わりました。以前と比較して神経を残せる可能性は80%増という感覚を得ています。ほとんどの歯内療法では隔壁が可能になり抜歯の数の減少しました。唾液の侵入が防げるので良好な予後も期待できます。

一方で、まだまだ誤解も多く、解明されていないこともあるのでそれらの整備が必要な段階ではあります。近年では治療の簡略化のために手順を省略した材料の開発が進められていますが、現在のところ従来の材料を上回るほどの明確な機能を有していません。それにもかかわらず、最新に飛びつく人たちには好評で売れに売れまくっていますが、その機能の低さが修復物の脱落や2次カリエスを招き、新たな治療の追加や抜歯などが行われている可能性が危惧されています。

有機質を溶かす性質を利用して切削器具を用いずに虫歯を取る薬もありますけれども、その後に有機質を対象に接着させて修復物が装着されるなどの行為も見られます。診療終わりに揮発性のボンディング材を準備して翌日の朝一からそれを使っていく、重合阻害を起こす薬剤の併用、など簡単に簡略化されたおかげで普及したのはいいのですが、目を覆いたくなる誤りが平然と行われていることも事実として一部ではまだ残ってます。