インプラントと早期抜歯

早期抜歯

迷信

最近ではあまり聞かなくなりましたけれども、

「歯周病が進んで骨がなくならないうちに、早めに抜いてインプラントにしましょう」

「インプラントは第2の歯みたいなものだから、骨を痛める前に歯を抜きましょう」

という話が盛んに言われていました。業者さんが作ってくれるホームページではそれらの文言は患者さんウケがよくないことを察知し、ほとんど見られなくなりましたけれども、今だにそのように考えている歯医者さんは少ないくないかもしれません。私自身の診療経験をいうのであれば、親知らずを除く抜歯の件数は年間に10件前後なので、自院のみでインプラント何千本などの話を聞くとこの手の話をされる先生方の顔を思い出します。

要するに、今はインプラントがあるから歯周炎が進行した歯は早期に抜いてしまえばそれで解決するということを言いたいのだろうと思います。そして、おそらく「インプラント周囲炎は進行しにくい」という臨床感覚でお話をされているのだろうと思います。では、本当に早期の抜歯に意味があるのでしょうか?インプラント周囲炎は進行しにくいのでしょうか?この疑問については確かに答えという答えはないかもしれません。ですから、これだけ世の中では科学が進んだ現在でも「先生の方針」「先生のやり方」という言葉が横行している分野なのだと思います。たしかに、この発想は先生のレベルが同じであれば問題のないことです。

歯周炎の歯の早期抜歯

歯科の業界にいれば当然のことですが「理想の咬合」「理想の口腔内」というモデルを目にしています。すると、あたかもそれが唯一解かのように感じられてきます。そうなると、一時的であろうがなんであろうが、その”答え”に向かってあらゆることを講じようとします。治療をする上ではどちらの方向に向かうかという指針は非常に重要なことです。ですが、私たち歯科関係者が目にする「理想的」なものは断片の切り取られた一時的なものにすぎず、普遍性が高いわけではありません。年齢・性別・生活習慣・地域・性別・等々、あらゆるものが個人では異なりますので、そのことへの考慮が充分になされるべきです。「素人よりも専門家の意見の方が正しい」「知らないから平気だと思っているだけ」という側面もありますけれど、殊更”理想”などというものについては先述した程度のもので普遍性もありませんから、尊重しすぎるものでもないと思われます。

歯周炎についていえば、その治療法は確立されているものなので可能な限り歯を残す選択を取るべきではないかと考えます。歯根の3分の1以上の骨吸収がみられ、歯冠歯根比が悪くなったとしても炎症を治癒させサポーティブペリオドンタルセラピーを行なってゆけば長期的に保存が可能であることが明らかになっています。この時に理想が先行してしまうと「見た目が」とか「歯冠歯根比が」とか色々な意見が出てきます。

インプランント周囲炎

このようなお話をすると「インプラントの方が早い」「それだけの歯を歯周治療で保たせてゆくのは大変なことだ」という意見が出てくることも確かです。ですが、近年の研究では歯周炎の感受性の高い患者さんはインプラント埋入後の失敗や骨吸収が多くなる傾向があるという報告があります。また、歯周炎で歯を喪失した患者さんの方が他の理由で歯を喪失した患者さんよりも骨吸収量やインプラント周囲炎の罹患率が高くなることがわかっています。さらに、インプラントの後期のリスクファクターに喫煙と歯周炎の既往があげられています。そして、これらのことは基礎研究でも解明されてきている段階です。つまり、歯周病の既往のある人はインプラントに置き換えてもリスクは変わらないのだから、歯根の3分の1程度の骨吸収がある歯を維持出来るだけの歯周病治療の力がそもそもなければ、インプラントを行なっても良好な結果は望めないということです。ですから、第一選択は歯の保存が必要だと思われます。そもそも、プラークの性質をちゃんと理解していれば、このような議論ももう少し違ったものになったであろうと思われます。そのような意味では、予防歯科や虫歯についても真っ当な判断がされているのか疑問を感じてもおかしくないと思います。