インプラントのオッセオインテグレーション

インプラントのオッセオインテグレーション

インプラント治療において「オッセオインテグレーション」という言葉はキーワードでもあり、高頻回に目にする言葉でもあります。

オッセオインテグレーションとは「骨組織に支持」という意味で用いられていて、「骨結合」「骨癒着」などのニュアンスでしばしば用いられます。ただ、後者の使用方法は若干の誤りを含むため、後述したいと思います。

このオッセオインテグレーションが獲得出来るか否かがインプラント治療の成功の大半を占めるもので、その獲得についてインプラントメーカー各社は競って表面性状の研究を行っています。表面性状についてはいずれどこかでお話ししようと思うのですが、現在のところどのようなものが望ましいかは明らかになっていません。

また、近年、発癌性物質を評価する国際機関の発表によれば「二酸化チタン」が「発癌性を分類できない」という評価から「発癌性の恐れがある」に昇格し、アセトアルデヒド・クロロホルム・DDT・鉛・メチル水銀化合物などと同ランクに属したことから対応が必要になる可能性もあるかもしれません。

インプラントの普及し始めた頃は「チタンにはアレルギーはほとんどない」ということでしたが、ここ数年で6倍近くのアレルギーんの報告もあり、徐々にインプラントを取り巻く環境が変わりつつあります。

これらの問題を考慮して「ジルコニア」によるインプラントも開発されてきましたけれども、その主目的は審美であり、オッセオインテグレーションについての長期的な課題は完全には消失していないという印象です。

これらの背景を踏まえて、オッセオインテグレーションについてお話ししてゆこうと思います。

オッセオインテグレーションの歴史

インプラントのオッセオインテグレーションの開発は1960年代初頭に行われました。ただ、その当時はオッセオインテグレーションという現象は完全には認知されておらず、何組織に被包されるという概念で捉えられていました。

1969年に動物実験により所定のガイドラインを遵守することで、直接的な骨との結合が出来るということが明らかにされています。

しかし、これらの報告にも関わらず、しばらくの間は学会では懐疑的に捉えられていました。

初めてオッセオインテグレーションが証明されたのは1970年代半ばに、インプラントの骨に対する結合を観察する技術が開発されてからでした。

ただ、アマルガムでさえ骨組織に取り込まれるということもあり、インプラント材料が繊維性組織に被包されるのか骨に取り囲まれるのかで議論を呼びました。これらの異物反応については、1990年代にオッセオインテグレーションが生体材料と表面粗さによる骨の反応の質的な差異であることが立証されています。

つまり、アマルガムは異物反応であり、生体に適合するものではない一方、インプラントは生体に適合するという判断がされた訳です。

オッセオインテグレーションを確実に示すための要因

インプラントがオッセオインテグレーションを確実に示すための要因として、以下のものが挙げられました。

・インプラントの組織適合性
・インプラントのデザイン
・インプラントの表面性状
・埋入部位の組織状態
・埋入時の外科的手技
・適用後の荷重状態

埋入されたインプラントがオッセオインテグレーションを呈するために、これら全ての因子が優劣なく重要であるとされています。

オッセオインテグレーションの臨床的現実と注意

オッセオインテグレーションの特徴として、それが一度獲得されると界面の抵抗性が比較的強くなることが知られています。しかし、各種の外部侵襲に対して免疫を獲得することはありません。

インプラント周囲組織はその治癒過程において放射線照射や過熱に極めて敏感ではあるものの、一旦オッセオインテグレーションが獲得されると同様の侵襲を受けても結合に問題はないとされています。

ただし、長期間に渡る不適切な状態はオッセオインテグレーションを破壊し、インプラントの失敗に繋がります。その代表的なものが過重負担になります。

過重負担位ついてはインプラントの埋入から最初の数ヶ月の間はオッセオインテグレーションにとっては有害とされていますが、オッセオインテグレーションの獲得がされると界面が大きな咬合力を負担できると考えられています。

けれども、持続的で動的な過重負担がオッセオインテグレーションを示すインプラントに加わり続けると、微小変位を起こし、後に生じる骨吸収の契機となり得ます。時間と荷重の正確な関係は解明されていないものの、この状態が修復されないならば最終的にはインプラントの失敗を招くことになります。

例えば、チタン合金(Ti-6Al-4V)製のホロー・バスケット型インプラントはクレーター状の骨吸収を伴い多くの症例で臨床的に失敗しています。インプラントの分野ではよく見かけることですが、このインプラントは長期間の臨床的な追跡調査が報告されないまま市販されました。

その他に、充実シリンダー型インプラントのような、その形状にネジ山のような特殊な維持形態が備えられていないタイプのインプラントは、周囲の骨レベルが安定状態にあることを示す研究は一つも見当たりません。

また、臨床的資料が乏しいにもかかわらず、臨床的には周知のものとして多用されているものとしてハイドロキシアパタイトでコーティングされている(もしくはされていなくても)中空または充実型のシリンダー型インプラントがあります。

これらは実験的な根拠としてオッセオインテグレーションを示してはいますが、時間の経過とともに進行性のクレーター状の骨吸収により支持能力が低下する傾向にあり、インプラントの失敗になることがあります。これは5年以上にわたる良好な臨床成績がないにも関わらず、1980年代半ばから市販されています。

「オッセオインテグレーション」という用語は、「骨組織に支持」という意味を持ちつつも、その獲得こそがあたかも長期的な成功を意味するかのような使われ方がされてきています。その結果、インプラントへの直接的な結合を根拠として、綿密に練られたものではなく短期的な動物実験だけに基づく新しいインプラントシステムが市場に出回る事態になっています。その様はまさに材料の視点からのインプラントバブルと言える状況です。

実際に、1993年の調査では、外見は似ているものの、チタンの組成、外形や表面の微細構造などを重視したインプラントとは異なるものが数多く出回っていることが報告されています。さらに1996年の調査では、実験的研究の結果を明らかに左右するような差異が認められるものも見受けられるようです。

科学的評価と臨床的関連性

in vitro(試験管内)の研究は科学的にコントロールされているものが多い一方、臨床的な関連性に乏しくなります。

臨床的な症例報告は科学的観点からは乏しいものとなりますが、臨床的な関連性は高くなります。さらに後ろ向き臨床研究、無作為のよく計画された臨床研究は科学的には平均レベルですが高い臨床的関連性を有しています。

しかし、in vitroとin vivoの間であってさえも実験結果が真逆になることが起こり得るのですから、in vitroと臨床研究の間には大きな隔たりがあり、せめてin vivoにおける動物実験が長期的なものであってくれればいいのにと考えてしまいます。

なぜインプラントの業界だけが上述したような状態になったのでしょうか?一つの要因に「お金」の問題があると思われます。実はよく見るとどの分野においてもこの種の話は出回っているのですが、何よりもインプラントはマーケットも大きく、客単価も大きいです。となれば、どの企業も参入したいと考えるのは当然です。

近年では自費診療の根幹治療やマウスピース型の矯正治療も同じような経路を辿りつつあります。

国や公共機関、学会なるものが連携し、さらには歯科医師個々人の厳しい眼による分析と安易な導入により治験が済んでいない材料の人体への実験が将来にわたり行われないことを願います。