インプラントの成功基準

トロント会議

インプラントの治療の成功を議論するためには、その定義を定めなくてはいけません。そこで、一番最初に評価基準を議論したのが1978年に米国ボストンで開かれたNIHハーバード会議でした。この当時は、現在の純チタンやチタン合金によるオッセオインテグレーション(骨性癒着)は主流ではなく、また形状も様々でしたので、多くの種類に対応する基準が設けられました。その後1986年に、Albrektssonらによって現在のような純チタンやチタン合金のインプラントによるオッセオインテグレーションの成立を軸とした成功基準が発表されました。
そして、1998年、NIHはコンセンサス会議を開き、事実上オッセオインテグレーションを認め、この会議以降臨床的に動かないインプラントが成功とみなされることとなりました。

それから時代は進み、現在は社会の豊かさが進むことと共に人々のニーズも多様化してゆきます。そして、インプラントも改良されてきています。そこで、1998年に開かれたトロント会議では次のような成功基準を設定しました。

・患者と歯科医師の両者が満足する機能的、審美的な上部構造をよく支持している
・インプラントに起因する痛み、不快感、知覚の変化、感染の兆候がない
・ここの独立したインプラントに動揺がない
・機能後1年以降、経年的な垂直性骨吸収は平均0,2mm/年以下

その結果どうであったか?

トロント会議では以上のように成功基準を定めました、そして、患者様のQOLの向上こそがインプラント治療の本来の目的であるとしました。この視点からインプラントの成績を調査した結果、エビデンス(科学的根拠)が不足しているこことがわかりました。そのため、今後のこの分野での研究を推進ようということでした。

インプラントの成功基準

現在のインプラントの成功基準

現在のインプラントの成功基準には、インプラント体、上部構造、患者QOLの評価を検討することとされています。この際のQOLについては、

・耐久性や生存に関する要因
・機能に関する要因
・心理的な要因
・経済的な要因

などを多面的に評価してゆきます。

さらに、インプラント体を評価する上では、

・一次手術か二次手術の間に臨床的に動かないこと
・上部構造装着後に状態を維持すること

を区別し、オッセオインテグレーションを獲得する確率とオセオインテグレーションを維持する確率に分けています。そして、これらの区分に則ってシステマティックレビューをしてみたところ、その数は少なくほとんどが後ろ向きコホート研究ばかりでした。

骨接触獲得率

これらの論文を用いて統合されたデータによると、日本国内では骨接触率(オッセオインテグレーション獲得率)は94.7%だったとされています。これについては海外では98.3%とされています。この違いは、海外の上顎の骨接触率が97.7%であったのに対し、日本の施設では上顎の骨接触率が90.1%と著しく低かったためのようです。日本人の上顎臼歯部は骨量が少なく、海面骨の密度が低いことと関係があるようです。

骨接触維持率

骨接触維持率(オッセオインテグレーション維持率)の場合を見ますと、15年累積生存率は93,2%とあります。失敗例のうち、インプラント体を喪失する場合は上部構造装着後の比較的早い時期に生じることが多く、一方で、10年以上経過した場合は比較的安定して維持され、喪失率はほぼ横ばいとなってゆくようです。

まとめ

「インプラントはどれくらいもつのか?」について、専門家の立場として明確な数字をお伝えしたいという歯科医師は少なくありません。しかし、ここまでお話ししてきた数字でさえ後ろ向きコホート研究であり、確実に保証できる数字ではありません。また、時間の経過と共に歯周病や糖尿病や骨粗鬆症に罹患するなどの不確定因子を含むとなると、これらの数字には何の意味もないかもしれません。とくに、本数による換算は同一人物に複数本のインプラントが治療されている可能性を含みます。そうであれば、不確定因子の母体数に偏りが生じるので信頼度が下がります。専門家として正確な数字を伝えるべきだという意見もありますけれども、これらのことを本当に慎重に検討しているのであれば、安易に成功率などと掲げられないように思えます。そのような意味では、本数、成功率などを謳い文句にしない歯科医師の方が思慮深く信頼できるのかもしれません。

いずれにしましても、多くの場合が成功率で90%を超えています。手術や失敗率などを考慮しても意義があると思える場合にはインプラント治療はよいものと思われます。また、喪失してしまった際に次の一手を考える等を初めから治療計画に入れておくなど、包括的な診療が出来ることが重要かと思われます。