グルテン不耐性

小麦

私が栄養療法に出会ったきっかけとなったのが「グルテン不耐性」です。

「大事」「大事」とは聞いていたものの、

「口から入れるものがこんなに身体に影響するんだ」

と本当に驚かされた出来事でした。

それまでの私はエビデンス(科学的根拠)が全てだと思っていました。実際に、日常臨床においてもエビデンスを重視して診療にあたっていましたし、「エビデンス通りにやっている」「できる限り研究と同じ環境を作りながら診療をする」ことに注力していました。

しかし、今思えばエビデンスが導く結果の中には、個体差に関する指標として「ランダムであること」ということが扱われていました。サイコロを1000回振れば分かりますが、「ランダム」は完全に1/6のように配分されることは少なく、偏りが生まれます。

それだけでなく、その無作為抽出されたサンプルには個体差の中の栄養状態や継時的な栄養状態の変化などは含まれていない訳ですが、このことは例え同一人物であっても常に変化が起きていることは考慮し切れないということになります。

たしかに、多くの人が新型栄養失調などと呼ばれる現代では、その観察においてそのままでの計測を行えば自然な状態を反映するのかもしれません。この研究モデルによって有効な治療方法を導き出したこともまた事実です。

ただ、それ以外にも尺度があることを知った一件が、この「グルテン不耐性」でした。当時、「日本ではグルテン不耐性はない」とされていました。

グルテンとは

グルテンとはそもそも、小麦に含まれるタンパク質です。小麦の種子の発芽に必要な栄養素である炭素や窒素を内包し、小麦内胚乳中の主要貯蔵タンパク質を構成しています。
その分子量は約3万から2000万まで連続的に分布しているタンパク質混合物と考えられています。

食品科学における粘弾性や密着性と呼ばれるものは、このグルテンによるものになります。
グルテンがあるおかげで、イーストを加え発酵させればモチモチの美味しいパンが出来上がります。グルテンのおかげでピザの生地は伸び、イーストの発酵でエアポケットが満たされて膨らみます。

このグルテンは食品技術者にとっては「グルテニン」と「グリアジン」に分類されます。

グルテニンは多くの基本構造が連なる構造を持つ高分子化合物です。この高分子構造のおかげでパン生地などは強さを発揮します。
グルテニンは小麦のタンパク総量の40〜50%を占め、小麦100gあたり5.9gと測定されています。

グルテニンはその高分子構造のため溶解されにくく、希酸、希アルカリ溶液、変性剤、界面活性剤に溶解または拡散します。

一方のグリアジンは、水素結合と疎水的相互作用により安定している小麦タンパクで、タンパク総量の30~35%を占めるといわれています。
さらにα/β-グリジアン・γ-グリジアン・ω-グリジアンの3つに分けられます。これらのサブユニットはそれぞれ分子量も異なります。
グリアジンのアミノ酸組成は高含量の「プロリン」とグルタミンを含むことが特徴的です。

プロリンはコラーゲンなどに多く含まれることなどでも知られていますが、その立体構造上消化酵素による分解がされにくく、分解されにくいために吸収もしにくいという特徴があります。

コラーゲンが「構造タンパク質」といわれているように、生体の構造維持に重要なタンパク質になりますから、そうそう簡単に分解されたり破断されては困ります。この頑強さを作り出すものの一つに「プロリン」の存在が関わっています。パン生地が伸びるのも、この特徴によるものと思われます。
今回の話に出てくるグルテンや牛乳のカゼインなども、この「プロリン」を多く含む食材であることが知られています。

グルテンによる症状

グルテン不耐症

小麦の糖質成分である「アミロペクチンA」という物質は果糖などよりも急激に血糖値の反応を起こすものですので、血糖調節異常または低血糖症などによる症状と鑑別が必要になってきますが、

グルテンを構成する「プロリン」は分解され切れず高分子のまま腸粘膜に入っていくことによって体内で炎症反応を起こさせるといわれています。
この炎症反応によって生じる身体反応は非常に多岐に渡り、個人差も大きくその数も多いです。

例えば、以前より製パン業者にみられる喘息がω-グリアジンによるものであることは広く知られていたことかと思います。

ニキビ・吹き出物などの皮膚症状の一部にも反映されるともいわれています。

セリアック病やグルテン不耐性の方は、グリアジンのなかでもα-グリアジンによって免疫反応が引き起こされれるといわれています。
これは小腸の特に回腸に炎症を起こして身動きが取れなくなるほどの腹痛を起こしたり、brain fogと呼ばれる症状などを起こすことがあるといわれています。

また、グルテンを酸処理した際に作られる脱アミド化α-グリアジンは細胞免疫反応がより強く生じるといわれているため、粘膜上皮を通過したα-グリアジンが酵素組織トランスグルタミナーゼの作用により脱アミド化されることは腸におけるグルテン感受性を高めることも示唆されています。

これらのように下痢や頭痛などの症状がある場合もありますが、無症状の場合も示唆されていて、その問題が懸念されています。

無症状のものの中には、小脳性運動失調などがいわれています。初期においてはつまずいたり物を落とすなどがみられます。これらがひどくなると、多くの場合神経外科を受診するようですが、原因不明であったり突発性の何かであると診断され、治療法もないので経過観察となります。

関連性については解明し切れていないようですが、古くは1966年にグルテンと神経障害の関係を指摘した報告があります。
この報告のほかには、セリアック病患者の10〜20%に神経系の問題があるというものもあります。運動失調症患者の約20%がグルテン血液マーカーの高値を示すようで、重篤な患者ではその割合が50%に増えるという報告もあります。また、末梢神経症がとの関連を指摘するものもあります。

これらは抗グリアジン抗体が小脳のプルキンエ細胞と結合することによるものではないかと考えられていて、現在もその研究が勧められています。

医学的観点からの分類ではグルテンを小麦・ライ麦・大麦の「プロラミン」あるいは「グリアジン」としています。プロラミンは最もプロリンの含有量が高く、このことが大麦やライ麦が小麦とは離れた関係であるにも関わらずセリアック病やグルテン不耐性の患者が症状を起こす原因となっているのかもしれません。

今回の話に出てたグルテンや牛乳のカゼインなどは、この「プロリン」を多く含む食材であることが知られています。

愉快な話

最近では、「健康な人がグルテンフリーを行うと危険」「グルテンフリーは注意が必要」などの記事が見られますけれども、その内容をみると「たしかに(グルテンフリーの)効果はある」と認めた上で、その効果については「余分なカロリーを取らなくなったから」「クッキーなどの加工食品を食べなくなったから」とし、「だからグルテンとは関係ない」というものが多いです。よくある因果関係をつなぎ直して持論に誘導する手法です。そして、それよりも「食事のバランスが崩れる」「食物繊維の摂取量が減る」ということの方が問題だというように話は進みます。

そもそも”健康な人”の定義が曖昧ですが、グルテン不耐性の方はグルテン摂取が無ければほとんど健康のように見えます。「いや、下痢によって栄養失調のはずだ」という意見も出るかもしれませんが、血液検査データをみると新型栄養失調の影響か、普通と思われる人たちとほとんど違いがありません。もしかすると普通の人の多くが不耐性ということもない訳ではないでしょうが。

その前に、何を言ってもグルテンは高分子で分解されにくいのは変わりなく、分解されなければ吸収されにくという事実は動きません。ただ、たしかにグルテンとの因果関係はあるともないとも言える段階だとは思います。グルテンが高分子であるということはその通りです。

この手の話にはその後に必ず恐い病気の話が持ち出されるのが常ですが、それに漏れず多くのこの手の記事では心疾患と食物繊維の話になります。食物繊維がコレステロールを下げるから、心臓病リスクも下がりますよという話です。この研究が何年のものか調べたいのですが参考文献が載っていないので分かりませんでした。

ちなみに、「近年」米国FDAがコレステロールについての声明を出しています。これに伴い、日本でも厚生労働省がその基準などについて公表しています。

さて、メタボリック診断が行われ、カロリーを気にする方が増えた昨今では、余分なカロリーを取らなくなっただけでも十分に良いことだと思うのですが、「そもそも余分(と自ら言ってる)だったのか」という印象です。たしかに高分子構造ですしGI値も異様に高いです。

加工食品を口にする機会が減ることも身体には喜ばしいことだと思われます。

グルテンとの関係はともかく、グルテンを避けようとしただけでその成果が得られたことは、非常に良いことではないかと思います。だって余分だっとようですし。

食物繊維はもともとカロリーが低いです。わざわざ高カロリーなグルテン関連食品を摂ってまでして、わざわざ加工食品を摂ってまでして、摂取しなければいけないのか疑問です。他のもので食物繊維を摂取すればいいのではないでしょうか。

ところで、現在調査中ですが、

グルテンフリーと書かれた食品やGFを標榜する飲食店のなかには、残念ながら食器や厨房を別けていなかったり、同じ工場の製造ラインで小麦製品を扱っているものも多く出回っています。
まさか、わざとやって「グルテンフリーは意味ないでしょ?」と誘導したいわけではないでしょうが、それらはトレンドとしてのビジネス商品と考えて、セリアック・不耐性・アレルギーのある方は注意してほしいと思います。

江戸時代にはパンなどによるグルテン摂取は非常に少なかったはずですが、200年以上もその文化が続いています。その中に日本食があるわけですが、後から入ってきたものでバランスを取り戻すかのような言いようが実に面白いなと思って記事を読んでいます。

今回の記事はグルテンが必ずしも悪いという話ではありません。まだまだ解明されていないことも多いものですし、世界中で食べられていて上記ほどの問題しかない訳ですからその真意はわかりません。
そもそも、病気の多くは様々な要因によって生じる多因子性のものです。グルテンだけが問題であるということもまた言い切れないと思います。

わからないことが多いからやめておくのか、みんなが食べているから自分もやるのか、その辺りのご判断は自己責任の上でご自身で判断をお願い致します。ただ、私は前者の立場を取るというだけです。