ホワイトニングと歯科衛生士

ホワイトニングと歯科衛生士

以前、ある雑誌の特集で記者がホワイトニングの治療を体験するという企画がありました。

記者の方はとてもお忙しい方のようで、仕事で徹夜になることもよくあるとのことでした。したがって、歯を磨く暇も儘ならないご様子。案の定、歯石がたくさん付着していて、歯肉は腫れているようで、その記事でも「歯周病ですね」と言われていました。

しかし、おそらくはホワイトニングの特集だからだと思いますが、担当した歯科衛生士は口腔内清掃もそこそこに、ホワイトニングを施術し始めました。

「本当はダメなんですよ」「はい、わかっています」

裏ではこのようなやり取りが何十回も繰り広げられていたのかもしれません。けれど、それを考慮した上でもやはり残念に感じたことは、そこにある「間に合わせ」の様子でした。

そのような状態(歯周病の疑いや歯肉炎など)で行われるものが本来のホワイトニング治療ではありません。得られる効果も身体に与える影響も異なってしまいます。記者の方ご自身にとっても不利益を被ることがあり得たかもしれません。

医療者として強い態度で「世間に誤解を与えかねないので、ちゃんとした手順を踏んでもらいたい」という旨を伝えることはできなかったのか?と思ってしまいます。

記事での会話のやりとりから推察するに、日常的にそのような状況であってもホワイトニング治療を行なっている可能性もありました。

関係者がひれ伏すほどのキャリアがない者であっても、ある程度に歯科治療を知っていれば、ホワイトニング治療を知っていれば、「おいおい、ちょっと待ってよ!」となるような場面のはずです。

通常であれば、ホワイトニング治療は中止もしくは延期して歯周治療を開始するところだったと思います。

もちろん、この取材の後に歯周治療を行なったのかもしれませんが、ホワイトニングの企画とはいえ誤解を招くものだったように思えます。この認識が常となってしまってきているからこそ、バーやら専門店(それしかやていないという意味かも)やらでホワイトニングを行ったことによるトラブルが増えてきているのかもしれません。

ホワイトニングのみならず、口腔内清掃などはある意味では気軽に試してもらいたいものではあります。しかし、受ける側に気軽さを持ってもらうためには、施術側は真剣に取り組む必要があるのではないかと考えます。

「歯の百科事典」では、これまでに活性酸素や二酸化チタンなどの性質や歯への影響などについてふれてきました。これらについて思慮深く日常から行なっていれば、わざわざ歯科クリニックで行ったのですから、もしかしたらあの記事での結末は違ったものになっていたかもしれません。

セミナージプシー

以前、20年ほどキャリアのある歯科衛生士さんとお話をしていた時のことです。彼女は今でも非常に熱心に講習会に参加して、日々新しい知識を得ようと努力しています。

その態度は素晴らしいものであり、同席していた若い歯科衛生士や私たちはとても感服していました。

ただ、話を進めていくと内容に矛盾やら疑問やらおかしなことが出てきました。

私がこそのことについて指摘させて頂くと、そしてその内容は若手の歯科衛生士でも納得し得るものだったのですが、「そのセミナーではこう言っていた」「この先生はどこどこの大学を出て、どういう研究をなさり・・・」という内容とは無関係な因果関係を提示してきて、あたかも盲信しているかのご様子でした。

「あのまま後輩に指導したり、患者さんに説明や施術をしてしまっては問題だな」と思ったので、論文を送ったり解説を試みたりしたのですが、ベテラン歯科衛生士の意見が変わることはありませんでした。

いったい、セミナーに何をしに行ったのだろう?と思いました。

本来、他人の意見を見聞きするということは「自分の」見聞を広めるためのものであって、思考を固めるために行うわけではないはずです。

もちろん、全く知らないものについて1からレクチャーを受ける場合には、初期段階においてはある程度の受け入れは重要になります。しかし、回が進むにつれて経験が積み上げられ、それをもとにした解釈が生まれ補正があり、やはりそれは固まるものではなくなります。むしろ応用の利くものとなっていくはずです。

そのような点においては既出のベテラン歯科衛生士はその技術において初心者だったと言えるのかもしれません。しかし、その分野については初心者ではなかったはずでした。もしかすると、多くの分野との関連性が見えていなかっただけなのかもしれません。

なぜこのようなことが起きるのでしょう?

近年はセミナーブームのようで、あちらこちらで講習会が開かれています。当院が講習会を行った際には会場の確保が大変で数ヶ月待ちは当たり前だったため大変驚きました。

この流れに伴い、セミナージプシーなどと揶揄されてしまう方や、とにかく資格(参加証明者?)を集めまくる人も増えました。

冒頭に挙げたホワイトニング治療での一幕も、ホワイトニングの講習や資格については私設団体レベルでのものも多くあります。そして、受講する側は「それが全てだ」と誤認する傾向をよく持ち合わせています。これは数年前にインプラントでも同様な問題が取り上げられました。

スキルと最新

そもそも「スキル」「最新技術」などの類のものは、それ自身が「基礎から派生した応用」であって、基本があって初めて使いこなせるものです。そして、基本ほど習得の難しいものはありません。

基礎=簡単という認識では医療技術の習得は覚束ないはずです。基礎がないので、その状態で応用を聞かされても使いこなせないのは当たり前です。そのため、「道具」で誤魔化します。これが最新やスキルにみられる裏の面かもしれません。結局、「進んだ」「進んだ」といわれる歯科医療においては、それほどインパクトのある変化は未だ起きてはいないのです。

私の知り得る限りの名医の先生方は基礎がとてつもない高レベルで確立していました。ですから、確かに彼らは講習会の翌日にはその臨床技術を応用し始めて上手く行っていました。そのような方達が講義して「明日から使える」と銘打っても、彼らだから成し得るものであって、私のような凡人では難しいものです。学んでいる時点でそちら側である我々の多くは、そのような認識を持つべきではないでしょうか。

最新にはそのような落とし穴があります。

クリニックの棚の奥に使いこなせない道具をたくさんしまっている所も少なくないはずです。全てが激しく変化してゆく現代において、基礎以外にはさほど重要なものなど存在しないのではないかと思います。

ホワイトニングと歯科衛生士

もちろんホワイトニングだけに限られたものではありませんが、ホワイトニングにおいても歯科衛生士は大きな役割を担うと考えられます。

患者さんからすると、歯科医師よりも歯科衛生士の方が話しやすく接しやすい存在です。ホワイトニングについて質問されることも歯科衛生士の方が多いかもしれません。また、ホワイトニング処置に必要な歯面清掃やスケーリング、PMTC、メインテナンスは歯科衛生士が主となって行うものです。

歯科医師と歯科衛生士の想定される役割分担は、

歯科医師:変色状態の診断・治療方針の決定
歯科衛生士:カウンセリング・ホワイトニングの説明・クリニカルパスの提示

などと考えられます。その他には、ホワイトニング処置の過程や禁忌、想定される副作用、処置中・処置後の注意事項などの説明も歯科衛生士の役割と考えられます。さらに、歯科医師の指示のもと、術前状態の記録、ホワイトニング効果の判定、歯面清掃などの実質的な業務もその役割の範疇に入るだろうと思われます。

ホワイトニングを通じて、患者さんに審美性の向上を体験して頂くこと、白くなった歯を維持するためにメインテナンスが重要であること、口腔衛生状態の向上も目指すことなども重要な役割の一つです。

今後、ホワイトニングへの関心が増大し、需要が増えることが予想されます。ホワイトニングの適用や限界、副作用への対応や安全性に関する知識をもつことは、歯科衛生士に期待されていることです。

そして、知識や技術だけでなく、医療モラルや日常の取り組み方など、せっかく休日を返上して学びを得たものに対して、自分の在り方次第で宝にもゴミにもなりうるということを意識してもらいたいと思います。