マイクロスコープ

マイクロスコープ

最新・流行

同じ楽譜を読んでも、演奏する音楽家が違えばその曲の色や雰囲気など感じるもの全てが変わります。同じレシピを見ても、料理人が違えば出来上がる料理は味が変わります。何かを行う際に、必ずその間に人が介在します。そして、その人によって結果が変わります。

野球のピッチャーの投げる速球が、誰にも見えない速さであれば野球ファンは応援のしようがないと思います。ボクサーの放つ目にも止まらぬ速いパンチも、観戦をしている上では目で追えることが出来ます。サッカー選手の巧みなボール捌きも見事なものです。私たちは意外にも、彼らトップアスリートの動きは目で見ることができ、応援しています。

しかし、同じフィールドで対等に競技が出来るわけではありません。つまり、見えるけど出来るわけではありません。これらが速い動きを要する競技だからではなく、ロッククライミングや囲碁や将棋ですら見えていても一流の人に勝てるわけではありません。

道具に何かを工夫して最新にしても、

マニュアル化して同じものを用いても、

目で見て確認が出来たとしても、

それらの結果は全て、運用する人によって大きく異なってしまいます。

近年、マイクロスコープという処置部位を高倍率に拡大して治療する方法が流行しつつあります。極端な発言をする人の中には、マイクロスコープを使わないと根管治療は出来ない、または真っ当な根管治療ではないとまで言い切る人が現れています。しっかり見えるからしっかり出来ているのだという、一見本当っぽい理屈です。

しかし、本当に見えているだけでいいのであれば、私たちの多くはトップアスリートですし、一流のアーティストであり、一流の料理人であり、黄金の腕を持つドクターとなれるでしょう。でも現実はそのようになってはいません。

技術というものは、見えることだけが裏付けてくれるものではありません。そうであればアスリートも音楽家も練習はしないでしょう。目でも休ませておくことが一番になってしまいます。現実的には、むしろ一流になればなるほどコンマ数秒のタイミングを、コンマ数mmの違いを、わずか数グラムほどの力加減を身体に覚えこませるために、来る日も来る日も気の遠くなるような練習を行っています。

見えるから精度が上がって、治療もより良いものになるということに因果関係があると思っていること自体にセンスがありません。良い治療の中には、おそらく数えきれないくらいの条件が含まれているはずです。ですから、そのような主張をしてしまう時点で他の分野も大丈夫なのだろうか?と疑問を感じます。

精度は上がるのか?

1990年代初頭の調査によると、この時点ではマイクロスコープは使用されていませんけれども、根管治療のイニシャルトリートメントでは90%以上の成功率であったことを報告しています。つまり、根管治療では無菌的治療を実践することで、以前からこれだけの成功率を達成していることとなります。

マイクロスコープの優位性を支持する研究の中に、副根という微小で発見しづらい根管を発見する確率が上がるというものがあります。発見率でみると、裸眼に対してマイクロスコープの方が30%も上昇したという研究もあります。また、拡大鏡に対してマイクロスコープは50%以上上昇したという報告もあります。マイクロスコープによる発見率が同じであるとするならば、裸眼より拡大鏡使用時の方がマイクロスコープとの発見率の差が大きいということは、そもそも見えることが優位に働くことではないことを意味しているようにも思えます。いずれにしてもこれらの研究の結果はどれも数字はまちまちです。このことは、研究に参加した術者の実力に左右されてしまうということを意味しているのかもしれません。

しかし、どの研究においてもマイクロスコープ使用時の方が発見率は上がるようです。ただ、レントゲンやその他の検査でどれだけカバー出来るのかという報告はないので、この発見率の報告にどれだけの意味があるのかは現在では何とも言えないというのが結論ではないでしょうか。また、裸眼による副根の発見率が低いことをいうのであれば、1990年代初頭の根管治療の成功率を考えると、そもそも副根の発見が臨床的にどれだけ意義があるのかという点にも疑問が残ります。更に、象牙質と髄床底の色調の変化や根管探索の容易化には有効という報告もありますが、これもまた治療の成功率との関連性を裏付けるものではないので何とも言えません。

つまり、現在のところマイクロスコープは使用すると根管治療の精度は上がるかもしれないが、治療の成功率が向上するとは限らないというのが結論となりそうです。

マイクロスコープの利点

では、マイクロスコープは全く意味がないのかというと、歯根端切除術という手術をはじめとする外科的歯内療法の成功率を高めるという報告があります。根管治療は根管の中にファイルなどの器具を入れるので見えなくなってしまういわゆるブラインドテクニックを要するのに対し、外科的歯内療法は治療部位が見えるような状況で行います。そもそも見えるからどうかという問題もありますが、根管治療の中でアドバンス的な治療方法である外科的歯内療法は、治療を行う術者のレベルがそもそも高い場合が多いので、その場合に見えると臨床効果が上がるというのは同意できる結果だと思われます。また、根管の中に残った根管充填材や破折した器具の発見、破折や小さな穿孔を見つけるのにはマイクロスコープは有利だと思います。