上部構造のセメント固定について

上部構造のスクリュー固定についてではインプラントの上部構造の設計が非常に大事であることとお伝えしました。長期的に安心して使えるインプラントを達成するためには上部構造のデザインは必要不可欠な要素であるということをお話しするとともに、上部構造の設計をする上では固定方法がその後のデザインを制限してしまうので、その選択が非常に重要であることをお話ししました。この記事では、上部構造の固定方式のひとつであるセメント固定についてお話ししてゆきます。

インプラントの器具

セメント固定とは

インプラントの適応範囲が広がるにつれて、

1,スクリューの緩み
2,スクリューの破折
3,アクセスホールの存在
4,不適切な埋入部位と角度
5,審美性の配慮

などのスクリュー固定に対する限界が指摘されるようになり、1990年代あたりからセメント固定が急速に増加しました。また、従来より歯科医師の治療内容にセメントによる修復物や補綴物の装着が広く行われていることから、その習熟を利用できるセメント固定はスクリュー固定に対して元から有利だったのかもしれません。なぜ初めから普及しなかったのかが不思議です。セメント固定が初期から普及していれば二の足を踏んでいた歯科医師もインプラント治療を始めていたでしょう。そうすれば、一部がやたらと権威を持つことなく一般診療に近い形でインプラントが普及した可能性もあるので残念でなりません。また、患者さん自身にとっても治療が簡略化されてくれることはミスの減少やトラブルの軽減に繋がりますからメリットは大きかったはずです。いずれにしても、セメント固定による術者の慣れている方法が普及したことは治療の質の向上には良い方向に働く可能性が高まります。セメント固定にはまだ議論の余地がありますけれども、普及する理由としては十分な材料が揃っているのではないかと思われます。

セメント固定の問題点

セメント固定であっても問題がないという訳ではありません。固定に使われるセメントについて合着用のものを用いるのか、もしくは仮着のものを用いるのかは今だに明確なガイドラインはありあせん。アバットメントの緩みに対するリスクが判断基準の一要素となるようです。セメント固定のリスクとして上部構造の脱離、アバットメントの緩み、セメントの取り残しおよびそのことによる周囲組織への影響などが考えられます。

仮着セメント固定について

取り外すことについてはスクリュー固定の際にも触れました。この流れを汲んで仮着セメントによる固定が残っているように思われます。つまり、何か問題が生じた時のために除去しやすい状態にしておきましょうということです。インプラント治療がいくら確立されているとは言っても、トラブルの可能性を払拭しきれないが為の配慮だと思われます。しかし、これらのことは当然にあり得る話ですから、着脱の自由度(リトリバビリティー)はインプラント補綴の特徴とも利点とも言えるものです。スクリュー固定のアクセスホールの封鎖や合着用セメントによる固定などは、この観点からみるとわざわざメリットを無くす方針を採っていることになります。

スクリュー固定の際に取り外すという場合には、アバットメントとインプラント体の間が取り外されてしまういます。そのため、少なからず細菌の流入が起き、感染を起こし、骨吸収が生じるというものでした。しかし、仮着セメントの場合の取り外す部位は上部構造とアバットメントの間です。この違いは微小漏洩による骨吸収に対して大きな違いをもたらすもので、それ故に仮着セメントでも大丈夫だろうという意見が出来るそもそもの考えとなっています。上部構造の中はアバットメントですから虫歯になりません。プラットフォームスウィッチングなどを行っていれば上部構造の取り外しについても細菌の微小漏洩の心配が極端に減ります。その上でいざとなれば取り外せるようにしてあるというのはとても便利なように感じられます。

合着用セメント固定について

合着用セメントが支持されている理由の一つに上部構造の脱離の問題があるように思われます。しかし、このことはインプラントに限らず天然歯においても生じることです。被せ物を脱離しにくいようにするには、

1,セメントの種類
2,適合精度
3,土台の高さ
4,土台のテーパー
5,土台の表面性状(ただしセメントによる)
6,咬合

への配慮が必要になります。合着用セメントにするというのは主に1,セメントの種類についての対処となっているだけになります。2,適合精度や4,テーパーなどは規格されたアバットメントとキャップを使用できればほとんど問題になりません。しかし、カスタムが必要になる場合は技工の技術力が必要になってきます。そして、そもそもカスタムにしなくても良い治療計画を立てられることや、埋入角度がズレない技術などの技量が問題となります。特に3,土台の高さについては、歯が抜けたところは吸収されて骨の高径は下がるはずです。その下がった骨にインプラントを行う訳ですから、噛み合わせる相手の歯までは遠くなるはずです。それに対して高さが不十分ということはその他の問題が起きているはずなのですが、そこを配慮出来ない事にそもそもの問題が含まれていると思われます。その他にはブラキシズムが考えられますが、あまりに厳しいようであればそれは治療計画の際に中止にするというもはやインプラントの技術とは関係ない部分での対処の差になってしまいます。適切な状況を整える事が出来れば、あえて合着用のセメントを使わなくても問題がないかと思われます。