亜鉛とは

亜鉛

「銅について」では「銅」の話をしましたので、ペアと考えてもいい「亜鉛」についてもお話ししようと思います。

「銅」や「亜鉛」は、人体に見出される多くの微量元素のうちの2つになります。一方で、カルシウム・リン・カリウム・マグネシウムというような元素は身体中に多量に見出され、細胞イオン環境を作り出すことから電解質と呼ばれることもあります。

微量元素は成人では、全ての微量元素を全て結合させたとしても4gほどの重さにしかならないといわれています。しかし、こうした極めて微量な元素が、人間の生理現象に深刻な影響を与えてきました。特にこの微量元素は脳の神経伝達物質の作用および神経伝達に影響し、脳の機能の仕方の制御に複雑な役割を果たし影響します。

例えば、今回お話する「亜鉛」は、脳のあらゆる酵素反応に関与しています。DNAやRNAの合成など、人間の生理と発達において多くの目的に役立っています。

亜鉛とは

亜鉛(Zn)は遷移金属に属しながらも不対電子を持たない金属です。このことは活性酸素を発生させる危険性がないことを意味します。また、亜鉛は鉄に次いで体内で2番目に多い微量金属で、陰イオンや小分子と配位結合して錯体を形成します。

亜鉛は多岐に渡り生体の酵素反応に関与します。亜鉛と何かしらの関係のある酵素は実に「200」以上もあるといわれています。その一部には

・炭酸脱水素酵素
・アルカリフォスファターゼ
・カルボキシペプチダーゼ
・プロテアーゼ
・アルドラーゼ
・コハク酸脱水素酵素
・RNAポリメラーゼ
・DNAポリメラーゼ
・アルコール脱水素酵素
・乳酸脱水素酵素

などがあります。亜鉛はこれらの酵素の活性中心において電子受容体としての作用を持ちます。
分布は前立腺・骨や骨髄・目の脈絡膜・筋肉・皮膚などに高濃度に存在します。さらに、酵素蛋白などの高分子化合物においてはその結合の安定性に亜鉛が関与しています。

その他には遺伝子の転写やホルモン(特にインスリン)と関係があるともいわれていて、プロスタグランジンとの関係においてはアトピー(1型アレルギー)にも関与が示唆されています。

このように、亜鉛の役割は「生命の維持」「細胞の成長」「細胞の分化・増殖」であり、その欠乏は成長発達障害・性線発育不全・皮疹など全身症状をもたらすこともあります。イランの小人症などが知られるようになりましたが、このことより亜鉛が成長発育に大きな役割を果たしていることがわかるかと思います。

亜鉛の代謝

亜鉛は体内に入ると、小腸の中でも主に十二指腸で吸収が行われ、その吸収率は約30%といわれています。

メタルイオントランスポーター(DMT-1)を介して促進拡散と、濃度依存的に受動拡散する二つの経路を持ちます。

上皮細胞内に取り込まれた亜鉛はメタロチオネインという担体と結合し輸送されます。またこの粘膜細胞を通過して血中に分泌される経路の他に、細胞間を通過する経路があります。

吸収された亜鉛は門脈中でタンパク質と結合して肝臓に運ばれて他の亜鉛結合蛋白に受け渡され、いくつかの担体に結合して全身の組織に供給されます。

代謝された亜鉛は胆管や膵管を経て、胆汁や膵液などお消化液に含まれた状態で糞便中に排泄されます。また、一部は汗や尿中にも排泄されます。消化液として排泄された亜鉛は、その大部分が再吸収され腸肝循環を行います。

亜鉛と歯科治療

亜鉛は上述しましたように、DNAやRNAの合成に関与しています。これらの合成はタンパク質を作るものですから、最終的に細胞分裂に関与するのと同義になります。このことから亜鉛は正常な細胞分裂に関係すると考えられ、筋肉・結合組織・骨などに関するあらゆるタンパク質の存在する場において重要な微量元素になります。

歯科においては、一例を挙げると「歯肉」の生合成に関与します。これは、亜鉛が「コラーゲン(タンパク質)」の生成と深く関係があるからです。また、象牙質などにみられるコラーゲンなどの生合成にも関係しているといわれていて、深い虫歯の治療後の反応はこのコラーゲンの合成や第二象牙質、軟組織ハイブリッド層の形成などに関与すると思われます。

亜鉛の特徴として「傷の治り」について言われることがありますが、歯科においても小外科手術の回復具合や、スケーリング後の回復、浸潤麻酔の針の刺入点などにも影響がみられます。

また、亜鉛は外界のもの(食物や空気など)と触れる粘膜においては、その代謝はかなり多いといわれています。そのことは鼻粘膜や咽頭・喉頭粘膜においても同じことがいえますが、口腔においては舌の味蕾の形態と感覚機能との関係がみられます。この原因の多くは降圧利尿剤や抗生物質をはじめとする薬剤によるキレート作用により亜鉛の欠乏が生じることが示唆されています。

このことは、味覚や嘔吐反射などども関係があるともいわれていますが、これだけでなく様々な口腔症状に関与します。

私は、亜鉛については血液検査データを確認することはもちろんのこと、口腔内所見におけるさまざまな特徴からその状態を診ます。それにより、嗜好品・アルコール摂取・食生活などが垣間見えるので、そこから派生する多くの病態や基礎疾患まで考えを巡らせます。

それにより亜鉛の過不足を招く状態を推測して食事方法の指導なども行います。
亜鉛を含む牡蠣

亜鉛欠乏

成人においては、身体的な特徴として白髪や爪の白点などがみられます。その他には、傷の治りの悪さや、傷の跡が残りやすいなどが見受けられます。男性の場合は生殖器に関連する諸症状だけでなく、前立腺が肥大することもあり、それに膀胱が圧迫されて尿意の間隔が短くなるなどの症状もみられます。

乳幼児においては母乳中の亜鉛濃度と発育具合に関連がみられることが報告されていて、特に皮膚の状態との関係も示唆されています。

その他には、脳の機能と深い関係があることからも分かるように、亜鉛の欠乏により多動や摂食障害など精神的な反応に近い症状が現れることもあります。

簡単に一部をまとめますと、

・成長障害
・性線発育不全
・性線機能低下
・食欲不振
・皮膚症状(糜爛・水泡・乾燥・粗雑・膿痂疹)
*亜鉛欠乏の急性期では皮膚症状が多い
・脱毛
・創傷治癒遅延
・精神神経症状(無欲化・情緒不安定・行動異常・振戦・記憶障害)
*このことは海馬に亜鉛が多く含まれることによります
・下痢
・易感染性
・味覚障害
・嗅覚障害
・鉄欠乏性貧血
・活性酸素障害
・血糖調節異常

などがいわれています。ただ、単に亜鉛の欠乏をみることはせず、銅との比率でみることが多いです。理想の比は,Cu:Zn=1:1〜1:0.85といわれています。

亜鉛は小腸上皮絨毛細胞において吸収され、DMT-1が輸送体となって小腸粘膜上皮細胞内に取り込まれ吸収されてゆきます。この時に使用される受容体や輸送体は他のミネラルとも共有されるため、有害な重金属などの継続的な摂取や誤ったサプリメントの常用、偏食などにより亜鉛の吸収が阻害されます。また、加工食品の摂取などによっても影響を受けることで吸収が阻害されることもあります。

また、汗や尿などに含まれて排出されたり、アルコールの摂取などによっても排出されます。

従来はほとんど不足になることはなかった亜鉛ですが、食生活の変化・住環境などにより不足が見られるようになりました。