修復物の耐久性について

前回の記事では、「修復物がどれくらいもてば成功か?」についてお話ししました。詳細は本文をご覧になって頂ければと思いますが、仮の結論として10年ほどもってくれればある程度納得ができるのではないか、ということでした。今回は「では、”実際に”修復物がどれくらいもっているのだろう?」ということについて、現在から過去に遡った研究を元に、お話ししてゆこうと思います。

修復物の耐久性

ある後ろ向き調査の結果をKaplan-MeierとCox比例ハザードモデルを用いて生存分析を行ったデータがあります。それによると、保存修復に専門性の高い歯科医師による施術ではコンポジットレジン修復の50%生存時間は約15年、メタルインレー修復が約20年以上という結果になりました。年数の差はあるようですが、統計処理をすると両者に有意差はありませんでした。ただし、メタルインレー修復では術者による差はみられませんでしたが、コンポジットレジン修復については術者の力量によって有意差が認められました。また、インレー修復は過去数十年間術式と材料が変わらないのに対し、コンポジットレジン修復はこの20年間ほどで大きな変化と著しい進歩がありました。したがって、コンポジットレジン修復における耐久性の改善は今後も期待できるのではないかと考えられます。

G.V.Blackの分類

虫歯を除去した後の残りの歯の形状によってクラス分けがあります。もしくは齲蝕を除去した窩洞による分類があります。大まかな説明をしますと

I級窩洞:臼歯の咬合面、臼歯の頬側及び舌側における咬合面2/3、前歯舌面、の小窩における窩洞
Ⅱ級窩洞:臼歯の隣接面における窩洞
Ⅲ窩洞:前歯の隣接面窩洞で切縁隅角を含まない窩洞
Ⅳ級窩洞:前歯の隣接面窩洞で切縁隅角を含む窩洞
Ⅴ級窩洞:歯冠の唇側・頬側・舌側の歯頸側1/3における窩洞

となります。この分類を用いてクラス別の生存を調査した研究があります。それによると、Ⅱ級の50%生存時間は10.8年、Ⅴ級では12.5年と推計され、Ⅰ級やⅢ級では20年以上という結果が出ています。しかし、種々の要因を考慮して解析し直すとクラス間では有意差がみられなかったとあります。ただ、術者の違いによってはⅠ・Ⅲ級では差がみられませんでしたが、Ⅱ・Ⅴ級では有意差が認められたとあります。つまり、同一の術者ではクラスによる生存時間に差はなく、術者の違いは生存時間に差が生じたということのようです。この違いはⅡ級の時は窩洞形成や充填技術が影響し、Ⅴ級では接着システムが十分に発揮出来なかったためではないかと考えられています。

修復物の耐久性

これらの結果にはパレートの法則(80:20の法則)に近いものが当てはまっていて、いずれの修復においても患者の半数で再治療が行われていました。そして、その再治療の半数は齲蝕リスクや咬合リスクがハイリスクである約10%の患者に集中し、短期間に何度も繰り返し行われていたようです。したがって、多くの患者においては実際の機能時間は推計値よりも長くなる可能性が高いと考えられています。ただ、同一術者による再治療の機能年数が低いものについては、元々苦手だということも考えられるため、種々のハイリスクの要因がどれほどの影響を受けるかについては失敗の種類を把握しておかなくてはいけません。

再修復治療の耐用年数

質の高いエビデンスが得られるといわれるランダム化比較対照試験では、修復領域の報告はほとんどありません。また、大学中心の縦断試験はバイアスも大きいとされています。そこで、一般歯科医院において一定期間に実施された再治療症例のみを推計しようという試みがいくつかみられます。これによると、コンポジットレジン修復の使用期間の中央値は4.5年、メタルインレー修復は6.8年と算出されました。

再治療の原因

再修復治療に至った原因をみてみますと、コンポジットレジン修復ではクラスによって主原因が異なります。各クラスの主な原因は以下の通りです。

Ⅰ級:破折
Ⅱ級:齲蝕・歯髄炎・破折・脱落
Ⅲ級:齲蝕
Ⅳ級:破折・補綴的要求
Ⅴ級:脱落

一方、メタルインレー修復では脱落と歯髄炎が主原因であったようです。いずれにしましても、多くの研究で指摘されているように、総合すると齲蝕が最も多く主原因であるとされています。当然に、脱落や歯髄炎にも齲蝕の関与は多いです。また、再治療方法をみてみると、コンポジットレジン修復では再コンポジットレジン修復が70%を占め、一段進んだ治療の大型化は20%でした。このことにより、コンポジットレジン修復は材料そのものの強度や機械的性質により破折や脱落を招くものの、主原因の齲蝕に対しては歯面処理により抵抗を持ち、治療の大型化を防ぐ可能性があることが考えられます。この結果は歯質の保存を考慮する上では大変有利なものとなります。一方で、メタルインレー修復での再治療方法は大型化されるものが50%に達していました。このことはメタルインレーの性質上、齲蝕の進行を許し、また内部での進行が多いことから発見が遅くなるという理由も考えられます。

これらの結果を考えると、一概に脱落や破折を失敗として算出することに問題があるように思えます。実際に、正常に装着されて昨日しているメタルインレーを除去すると、内部に齲蝕が生じていることも少なくなく、症状もほとんどないことから、むしろ脱離してこないことによって齲蝕の発見が遅れてしまうリスクもあると考える必要がありそうです。また、コンポジットレジン修復では直接覆髄によって抜髄を回避できる症例もあることから、単に再治療の主原因からの観点からだけでは恩恵を享受出来なくなってしまう可能性も考えられます。

修復物に期待する耐用年数には当然応えなければいけないと思われます。そのためにも治療技術の向上と材料の性質の進歩が日々行われてゆくことが大事になります。ただ、現実的な問題として、トラブルの違いはあれども現状では100%に近い確率で再治療が行われる訳です。そもそも人間が寸分の違いもない容姿で何年もいられるということはほぼないように、歯も日々摩耗や溶解の影響を受け、虫歯や治療による変化を生じ、毎日異なる食事をして異なる生活をし、歯の移動すら起こります。リスクを考慮しないことの方がむしろリスクであると考えることが自然のように思われます。

まとめ

検討するべきこととして、トラブルが生じた際に再治療の程度が軽いということは大変なメリットであると思われます。脱落そのものよりも、脱落した原因にこそ目を向ける必要がある場合も少なくありません。また、今回の調査には修復物と歯質の機械的性質の違いによるリスクや、それによって生じる歯質の歯折や亀裂について、さらには咬頭干渉やブラキシズムの惹起やアレルギーなどについてはリスクに挙げられていませんでした(これはこの論文の性質として修復物の耐久性について調査することが目的だったからだと思われます)。また、現在一般的な歯科医院で行われている歯科治療の60~80%は再治療とさえ言われていますので、レストレーションサイクルに陥らないことは優先すべきことのように思われます。メタルインレーの窩洞の形成時においてさえ、歯質の削除量の減少を考えるわけですから、それならば第一選択としてコンポジットレジン修復を検討することも視野に入れてほしいと考えます。メタルインレーを選択する際にその決断を左右する要因として、形成のみをしてスタッフに型採りを任せることによって診察出来る患者数の増加が含まれている可能性があり、メリットが多いけれども手間のかかるコンポジットレジン修復は敬遠されがちの傾向にあるようです。しかし、そのことは治療の本来の選択ではないように思われます。患者様も、最新の器具と綺麗なクリニックで治療を受けるために自分の身体の一部を余分に失うことは望まないと思われます。