情動の発達 5 ~人格的同一性の発達~

人格的同一性の発達

人格的同一性の発達

12~17歳、一般的には思春期と呼ばれるこの段階では、身体が急激に発達するとともに、自我が獲得される心理社会的な発達段階でもあります。この時に感じる自己同一性の感覚は、自分が家族よりも大きな集団に属しているという漠然とした感覚と、家族と離れても存在しうるという実感が混ざったもののようです。新しい多くの機会に出合うため、また性欲の出現が他者との関係にも絡んでくるので極めて複雑な発達段階であるといえます。同時に身体能力は変化し、学業に対する責任も増し、自分の採るべき進路も定まってきます。

価値観確立機会の放棄と自己卑下

自分自身の主体性を確立するためには家族から部分的に独立しなければいけません。個人の内的世界の激しい変化にもかかわらず、共に存在しているという連帯感があるので、仲間同士という概念は依然として重要性を増してゆきます。この段階で仲間は重要な役割モデルになり、親やその他の権威の象徴や価値観や好みは拒否される傾向になります。これと同時に、自分らしさや自己の価値を確立するためには仲間からもある程度距離を置く必要があります。思春期が進んでいっても、いつまでも集団行動から抜け出せない場合、人格的同一性の正しい発達が得られていないことを示唆します。このことは、将来進むべき方向がわからない感覚、社内の中での自己の位置する座標の混乱、自己卑下をもたらすことになります。

歯科治療では

矯正治療の多くはこの段階で行われます。しかし、親という権威が拒絶されているこの時期の行動管理は、極めて難しい場合があります。そのため、矯正治療を子供自身ではなく親の希望のために始めるのであれば、矯正歯科治療そのものが心理学的に問題のある状況を患者さんに作り出してしまうことになってしまいます。ですから、この時期の治療は本人の希望があるのみに行われるべきであって、親御さんを満足させるために始めてはいけません。ですから、私の場合は相談時に親子関係や本人の希望や価値観といったものを言語以外で見るように努めています。個人的に希望は口で表現することが出来ますが、誰かに言われたことを単に発しているだけの場合が非常に多く、本人ですら気がつかない欲求というものが考えられるからです。

治療を希望する動機づけには内的なものと外的なものがあります。他者からの圧力が外的動機付けとなりうるのですが、この年齢層に考えられる外的動機付けとは例えば母親からつべこべ言われないため、というものがあります。内的動機付けとは本人自身の願望からくるものであり、治したいと思うものは自分の認めている欠点で、他人に指摘された欠点ではありません。ただし、仲間の賛意は非常に重要になってきます。周囲の人間が審美的なものには無関心な集団に属している場合は、その動機付けは脆いものとなる可能性があります。

患者さん自身が自分に対してではなく、自分自身のために行うものとしての治療はきわめて重要です。抽象的に「健康は大事だよ」ということを把握することは容易に出来ますけれども、健康上の意義があるという理由で行動することを訴えてもあまり関心が払われません。この段階では健康に関する問題は他者の関心ごとのように感じるものです。このような態度は無鉄砲な車の運転や不注意な歯磨きによるエナメル質の脱灰に至るまであらゆるところにみられます。