栄養療法と血液検査

栄養療法では、自覚している症状だけでなく外見や生活習慣、食事内容なども含めて健康状態を診てゆきます。そして、客観的な指標として最も重要視するものが血液検査です。身体の不調を改善しようと考えた場合、一番最初に改善を試みるものがタンパク質の代謝です。このタンパク質の代謝が正常に行われることによってATP(アデノシン三リン酸)が生成され、全身の全ての細胞が機能を取り戻し、組織の改善が生じ、不快症状の改善へとつながると考えられています。ですから、血液検査を行うことによって、全身の様々な器官に関与する酵素(タンパク質)などを確認することは非常に有効であり、それゆえに重要視されています。

血液検査

私のクリニックでも採血を行うことがありますし、多くの場合に健康診断で行なった血液検査の結果を持参してもらいます。もはや、それらのデータなしでは診断が出来ていないというように診療が大きく変わっています。

なぜ血液検査なのか?

栄養療法における血液検査データの解釈では、栄養素の利用と合成が上手く行われているかが分かります。さらには、データに影響を与える炎症や感染、臓器の働き具合、酵素やホルモンの働きなども分かります。血液検査を経時的に追っていくことで、自覚症状のあったものの改善は偽陽性になっていないか?また自覚症状がなかったものでも、将来のトラブルを発生させるリスクを下げることができたのか?などの確認を客観的な指標を用いて行うことが出来ます。保険の都合などもあり、検査項目が少ないデータもありますけれども、一部の数値だけでも臨床所見と照らし合わせることで血液検査がないことよりも正確に状況がみえてきます。

血液検査データの解釈の違い

通常の血液検査の解釈では、栄養状態に問題がないということを前提に勧められることが多いです。時に、高血圧や糖尿病や腎臓の疾患がある場合でも栄養状態の影響まで考慮して判断されることは少なく、「塩分は控える」「バランスよく食事をする」「タンパク質の摂取に気を付ける」といった内容の食事指導が行われます。たとえばAST,ALTなどの項目は主に肝機能について調べられる検査項目ですが、通常では基準値内であれば問題なしとなるところです。しかし、栄養療法ではそれそれの数値のバランスや他の要因との兼ね合いを検討し、ビタミンB6不足やその裏側にあるであろうタンパク質やその他のビタミンB群の摂取不足などをみます。また、数値のバランスから脂肪肝や溶血を推測し、その背景にある酸化ストレスや血糖調整なども検討します。一般的に貧血の判断につかわれるヘモグロビンですが、栄養療法ではその反応性の低さを考慮して他の診査項目を利用することによって鉄分の欠乏具合を検討します。基準範囲にあることで終わりにするのではなく、その他の項目に問題が生じているのに、なぜこの項目は基準範囲内に入ってしまったのだろうか?ということまでを栄養療法では考えて読み取ります。また、栄養療法では経時的変化に対する評価を重要視します。

基準値・基準範囲とは

基準値について最も多い誤解というものが、基準値内であるということは生体の正常な機能を示している、と考えられていることです。血液検査の数値は母集団の±2SD(標準偏差)が、つまり母集団の95%が占める範囲を表したものです。この母集団というのは日本国民の全てのデータを指すのではなく、ある一部の組織、もしくは一部の集団のものが使われていることが多く、その標本数には規定がありません。私は実際に母集団の標本数を知ってるのですけれども、統計学的に日本国民全体の基準として用いられてもよいかどうか疑問の残るものと感じています。また、CEA・コリンエステラーゼ・γ-GTPなどの項目は個人差が非常に大きく反映されてしまう項目であり、集団変動幅に比する個人変動幅は30%以下といわれています。反対に、Cl・Ca・Naなどの項目の比は80%以上あり、検査項目の読み取りに対して有用であると思われます。

この他に定められた基準値には、学会の推奨する値を採用しています。なので、どの検査会社であってもある項目の基準値は同じになっています。反対に言えば、その他の項目については検査会社により基準値が異なるということです。学会の推奨する値に関しましては、どのように決められたのかを調べることは可能ですので、それをご覧になってからご自身で判断されるとよろしいかと思います。

これらのことより、基準値や基準範囲というものは個人の正常値を正確には反映していない概念であると考えられるようになってきています。栄養療法では基準値という考え方では個人の状態を正確には捉えることができないとし、臨床判断値という考えで診断が進められます。臨床診断値とは、同じ血中成分についても検査値の使用目的により臨床的な判断基準も異なるという考え方になります。