歯を磨いてはいけない!?

歯科業界人がそれを言ったら終わり

最近、「歯を磨いたらいけない」といった内容のお話がちらほらと聞かれます。奇を衒ったキャッチーな言葉で興味を持たれた方もいらっしゃるかもしれません。その手のお話をする方の言い分としては次のようなものです。

・歯周病菌や虫歯菌は元々常在菌なのだから、体の免疫がおかしくなったのが原因だ
・歯磨きで免疫バリアを破壊してしまう
・虫歯になりやすい場所はそもそも磨けない
・歯垢があるところに必ず虫歯ができるとは限らない

他にも独自の理論があるのかもしれませんが、大まかな意見としてはこのようなところのようです。これらについてエビデンスとしてはこうだ、論文ベースではこうなっているというお話をすると、「論文は捏造されている」「企業が有利になるようになっているんだ」などの主張がされます。

一部では自分たちに有利になるように見せるデータもあるかもしれませんが、それで全部が同じであるという証明にはなりません。せめて「論文は捏造されているという論文」くらいは書く必要があるかと思います。世界中の文献を国家レベルの予算を組んで調べなくてはいけないでしょう。少なくとも、国や大きな団体がわざわざ予算をつけて調査したのですから、私はある程度信用度があると考えています。もちろん、論文も人間が行うものですからバイアスに引き付けたことはあるかもしれません。ただ、個人レベルで陰謀論だと語っている人よりかは信用できます。論文はほとんどに協力者がいます。そして評価者もいます。その評価者には学生から専門家と様々な人がいます。そして、陰謀論者は評価者の一人にすぎません。また、その言動からメサイアコンプレックスの可能性も疑わしいと思います。

予防歯科

免疫の問題か?

歯周病の場合、常在菌に負ける免疫に問題があるような話がありますけれど、そもそも歯周病の原因が菌であるということは証明されていません。これくらいの歯周病の程度の時にこのような菌の検出が多くみられますというレベルのところまでしか解明されていません。しかも、歯周病と特定の菌種との関係を示した研究の多くは断面調査であり、このようなデザインでは関連性は示せても因果関係はわかりません。

これに対して「常在菌にーー」という議論ができてしまうということは、そもそも論文の読み方レベルで誤解をしている可能性が高いです。

歯磨きが免疫バリアを壊すのか?

そもそも菌が原因かどうか解明され切っていない時点で免疫がどうのという話ができません。では歯ブラシではなく食物が歯茎に当たる場合ではバリアは大丈夫なのでしょうか?何秒間にどれくらいの圧力の刺激が問題なのでしょうか?現代のような歯ブラシのなかった古代から歯周病はありましたが、彼らはどのように免疫バリアを壊したのでしょうか?歯周病の歯周ポケットとは歯肉溝の内縁上皮より生じるものであって、外側の歯肉からどのように影響を及ぼせるのでしょうか?そもそも、歯周ポケットどころか歯肉溝に歯ブラシの毛先を入れることさえ難しいです。

そもそも磨けない部位だから虫歯になる?

歯ブラシで磨けない部位が虫歯になるという話が一番面白い理論です。歯ブラシが届くところは虫歯になりにくいといっているようなものだからです。でも、この手の主張をする人は「だから歯ブラシは意味がない」という結論を見出します。また、この歯ブラシが届くところには自浄性があるから虫歯にならないんだというような主張も同時にしています。

自浄性とは、唾液の流れや噛むことで歯に残った食渣が自然に流れて綺麗になるようなことをいいます。一見、これもそれっぽいのですが、だから歯ブラシは無効であるという証明にはなれないです。そもそも、体調は日々変わって唾液量も変わります。食べ物も毎食変わります。休日に一日中ゴロゴロしていると唾液の流れはどうなるのでしょうか?自浄性だけに頼れという方が難しいです。

虫歯の菌が悪いのではなく砂糖が悪いという話ですが、砂糖が良くないことには同意できるのですが、砂糖単体でも虫歯は作れません。ましてや、腸管免疫を語るのであれば、口腔内フローラの改善のためにブラッシングは必要です。

歯垢のあるところが虫歯になるとは限らない?

それはそうです。歯垢が出来るたびに虫歯になっていたらそもそも口腔内に歯垢が止まれませんので、歯垢の認識が変わると思います。
それよりも、歯垢がどのように身体に影響を与えているのかという話の方が大事です。それを考えると、磨かないという選択はあまり考えられないと思います。

まとめ

最後は面倒になって適当にあしらってしまいましたが、彼らは最終的に腸管免疫の話に持って行きたいようです。だから食事に気を付けろという論法なのですが、腸管免疫を持ち出すのであれば、尚更歯磨きが大事になってきます。口腔内フローラがどれだけ影響を及ぼすことか。

また、虫歯の原因を結果的に砂糖のせいにしたいなどの議論に持っていかれるのですが、確かに砂糖の問題が大きいだけに論理展開が残念です。

厚生労働省の歯科疾患実態調査の話を持ち出して、日本人の9割以上が毎日歯磨きをし、7割が一日2回以上磨いているのにもかかわらず、日本人の95%が虫歯持ちだ。だから歯科医療の何かがおかしいという主張も見受けられるのですが、

勉強している受験生の95%が東大に受からないのはおかしいといっているようなものです。正規分布の2SDが95%です。もちろん中央値が変化してしまう可能性はあり、正規分布を持ち出すべきではないかもしれません。ただ、磨いているかどうかの評価ではなく、適切に磨けているかが重要なので、回数や人数のデータを持ち出して人を煽っても仕方がないことです。

自分が支持したい学説に都合が良いデータだけを、都合よく解釈するために学術論文があるのではありません。多くの研究者はこの意志を守ろうと必死で努力をしています。残念ながら一部ではそうではないこともあるようですが、そのことを断罪するのであれば、自らもこのようなデータの用い方をするべきではないでしょう。これをしている時点で、捏造だと騒ぐのは実際に捏造した人と同じ思考回路であることに気がついてもらいたいです。

実際の本当のところはまだ分かりきっていません。ただ、企業が歯ブラシを作ったから人類は歯磨きを始めたのではなく、原住民から見られるように自ら歯を磨くことが始まっています。これは学習によるもので、これも進化の一つだと思います。これに誤りがあればまた正していく必要があるのでしょけれども、現時点では有効にあるように思います。

色々な情報があるので迷うこともあるかと思いますが、現状では歯を磨かないという理論は磨くことを否定しきれないようです。
一生懸命磨いていただくことをお勧めします。