歯周病と早産・低体重児出産との関係

歯周病と妊娠

近年は出産時年齢が上昇しているといわれている一方で、30代以上の80%が歯周病の危険に晒されているというお話もあります。30代でいきなり80%の方が歯周病になるということでもないでしょうから、20代であってもリスクがない訳ではないかもしれません。もし、歯周病が早産や低体重児出産と関連があるのであれば年齢に関係なく十分な対策を講じて頂くことが推奨されます。文献にあたりますと、歯周病に罹患した妊婦では、早産・低体重児出産のリスクが増大するという事に関してはある程度のエビデンスがあると考えられています。そして、妊娠中に行われる歯周治療に関しては安全であり、歯周組織の回復のためには有用であるとされています。しかし、妊娠中期の歯周治療は早産および低体重児出産を抑制しないというエビデンスもあることから、それらの予防を目的とした歯周治療は行わないことが勧められています。では、これらのことはどのようなメカニズムによって考えられたことなのかをみてゆきたいと思います。

感染・炎症と早産・低体重児出産の関係

早産は妊娠37週未満での出産、低体重児出産は体重が2500g未満での出産と定義されています。早産・低体重児出産での新生児には身体的・知能的な障害を併発する可能性も指摘されています。胎児は羊水内で成長するため、羊水、羊膜への細菌感染は早産や胎児の発育不全の原因のひとつとして考えられています。本来、羊水は無菌的な環境であり、正常に出産した妊婦における子宮内感染の頻度は1%未満と報告されています。これらのことより、子宮内部への細菌感染が認められた妊婦はm早産・低体重児出産のリスクが非常に高まると考えられています。

これらの早産・低体重児出産には様々なリスクファクターが知られていますが、未だに全てが解明された訳ではありません。その上で、口腔内からの感染や慢性炎としての歯周病が注目を集めています。2013年に行われたメタアナライシスでは、影響の程度は強くはないが、他の要因とは独立して歯周病の影響が出産結果に関わると結論づけられています。

歯周病原細菌の影響

例えば、切迫早産であった妊婦は口腔内のBOP(+)の部位、PlI、CALが3mm以上などの部位が有意に多かったという報告があります。また、歯肉縁下プラーク中のTannerella forsythiaの占める割合も高かったといわれています。その他には、早産であった妊婦からはP.gingivalisが有意に高頻度で検出されたという報告もされています。また、歯周ポケット内にP.gingivalisが検出された妊婦の羊水中にもP.gingivalisが検出されたという報告や、絨毛膜羊膜炎による早産であった妊婦の臍帯からP.gingivalisが検出されたという報告もあります。これらの報告より、歯周病原細菌が胎盤や羊水、臍帯などに定着する可能性が考えられています。

歯周病の炎症性物質の影響

歯周病による炎症反応で炎症性物質(IL-1,IL-6,TNF-αなどのサイトカイン、ケモカインやPG)の上昇が出産に影響するメカニズムも考えられています。各種サイトカインやケモカインは上昇すると子宮内でのタンパク分解酵素の分泌を促進し、頸管熟化や子宮収縮を引き起こし、早産を誘発しているという可能性が示唆されています。またプロスタグランジン(PG)は子宮収縮促進薬としても用いられることもある物質であり、早産などの出産異常に関与している可能性が考えられています。いくつかの報告によると早産の妊婦では口腔内の炎症が強く、血清中のIL-1β、IL-8の濃度が高値であったとされています。また、早産妊婦ではPGE2濃度も高く、プラーク中の細菌総数と比例しているという報告もあり、口腔内の環境が羊水中のサイトカインに影響し、出産に影響を及ぼす可能性が示されています。

歯周病の免疫応答の影響

ある研究では歯周病原細菌の感染によって上昇する抗体の一つが抗リン脂質抗体症候群(APS)に類似した症状を引き起こす可能性を示し、抗体の上昇が切迫早産や早産に関連しているのではないかと疑われています。また、正期産妊婦の歯周病原細菌に対するIgGは早産妊婦よりも高く、早産児の臍帯血の歯周病原細菌に対するIgMは正期産の胎児よりも高かったことが示されています。これらのことは大規模研究でも報告がされており、歯周病原細菌に対する免疫応答で防御機構が弱い場合、歯周病原細菌は子宮内への移行がみられ、早産・低体重児出産に影響を及ぼす可能性が示唆されています。

In vitroの研究ではP.gingivalis LPSの影響により、torophoblastや血管内皮細胞からTNF-α、IL-1βなどのサイトカインやIl-8,MCP-1などのケモカインやPGの産生が促進されることが確認されています。また、P.gingivalisの感染だけでIL-1、Il-8,MCP-1などの産生が確認されています。これらの実験では、アポトーシス誘導が確認され、胎盤機能低下や胎盤剥離に繋がる可能性が示唆されています。また、胎盤機能低下は胎児の成長を妨げる可能性も考えられます。