歯周病と誤嚥性肺炎

歯周病と誤嚥性肺炎

2011年に肺炎が日本人の死因の第3位になりました。2014年には死因の約10%を占めるようになり、そのうちの約95%が75歳以上の高齢者であるという報告がされています。90歳以上の高齢者においては、死因の第2位に相当したものとなっています。この高齢者の肺炎については、特に誤嚥性肺炎と考えられています。歯周治療がこの誤嚥性肺炎のリスクを低下させる作用があるのであれば、そのメカニズムに熟知し、現在よりもより発展した治療を施すことが誤嚥性肺炎によって高齢者がお亡くなりになるのを防げる助けとなると思われます。現状では誤嚥性肺炎のリスクの高い高齢者は、歯周病に罹患しているにも関わらずブラッシング主体の口腔ケアで対応されていることがほとんどであるようです。商業的に発展をみせた訪問歯科診療ですが、このせっかくの発展を利用して訪問歯科診療自体のレベルの底上げをすることが多くの方へのメリットになるのではないかと思われます。

実は、エビデンスが不足している

デンタルプラークから検出される肺炎原因菌の陽性率は、慢性肺疾患患者では高いことが知られています。ただ、少数の横断・縦断研究のみしかエビデンスは得られておらず、それらでさえも誤嚥性肺炎に限定されたものではないため明確に結論づけることが出来ません。また、疫学研究や動物モデル研究でも報告が上がっていますが、これらも同様にエビデンスが不足している状況です。観察研究は1件のみとなり、歯周病罹患者が元々多いため誤嚥性肺炎リスク因子としては結論づけられていません。そもそも、誤嚥性肺炎患者の大部分が高齢者であるため、加齢そのものが誤嚥性肺炎のリスクファクターであると考えられています。おそらく加齢に伴うフレイルなどもその原因の一つとなるものの、それらと歯周病原細菌との関連を明確に示したものは今のところありません。

呼吸器疾患のリスクはどうか?

歯周治療を行うと誤嚥性肺炎のリスクが低下するということについて、それらを支持する臨床研究では口腔衛生管理状態を示す指標が曖昧なため、口腔ケアと嚥下・咳反射・肺炎の発症を関連付けてしまっているため、結果として口腔ケアの何が影響を与えたのか、本当に口腔ケアが影響を与えたのかなどの点が分からなくなっています。実際、歯周病に罹患していることと口腔衛生状態の悪化や口腔機能の低下が同義に近い形で解釈されているため、それらを大まかな概念として歯周病とし、それが呼吸器疾患リスクを高めると理解されているようです。そのため、口腔ケアによる呼吸器疾患の抑制についての臨床研究が多く、直接的な歯周治療に関するものはほとんどありません。これらの解釈を広げると、口腔ケアは細菌量や細菌叢を変化させ、咳反射や生体の反応へ影響を与えているということも考えられます。

確固たるエビデンスはないものの、「火の無い所に煙は立たない」ということで治療に備える必要はあるのかもしれません。細菌の全身への影響を鑑みるに、口腔ケアは細菌学的にも生理学的にも影響を及ぼしていると考える必要があります。口腔ケアと人工呼吸器関連肺炎に関するメタアナリシスは少ないですが、コクランライブラリーではICUの成人患者の人工呼吸器関連肺炎リスクを40%低下させるとしています。ただ、肺炎死やICU期間への影響は明確ではないという結論付けもされています。