歯周病の進行と歯肉の炎症

プロービング

最近よく相談を受ける相談の中に「歯周病と言われました」「(過去に)歯周病と言われたことがあります」というものがあります。

よくよく話を聞いてみると、フラッと立ち寄った勤務先の近くの歯科医院などで検診を受けたり、出張先でクリーニングを受けたりした際にそのように言われたというものが多いです。レントゲンで骨が溶けているのを確認したということで歯周病の診断を受けたという方もいらっしゃいます。

少しオーバーに言って歯科受診を促すというのも、時にはその患者さんの為を思えば必要なのかもしれません。結果的に私の所へ受診し、事無きを得ることもあります。

ただ、脅かされ過ぎて心配になり過ぎてしまう方も少なからずいらっしゃいます。その際に多く見られるのが”ドクターショッピング”です。あちらこちら「いい先生はいないか?」「あそこは評判がいいぞ」「こっちは口コミがいいよ」と良い先生であることとはかけ離れた基準で先生探しをします。この心理状態についてもいずれお話しするかもしれません。

ただ、私は医療行為にも人間の癖が出ると思っているので、セカンドオピニオンは必要だと思っています。ですから、探す事自体は反対ではありません。

問題は、浅いショッピング段階の際に聞いた情報を次の場所に持ち込んで、一貫性が崩れたところを不信になってまた探すところだと思います。このように言うと少ない回数で決断しようとしてしまう方もいらっしゃいますが、そうではなく自分が納得のいく治療をしてもらえる所が見つかるまで探すべきだと私は思います。つまり、判断基準を冷静に検討してもらいたいのです。

そもそも歯周病診断の前提とは

そして、前提としてあるのは、そもそも単回の歯周検査や少数回の歯科受診では歯周病の診断が行えない、ということです。これは歯科医師の技術や能力の問題ではなく、歯周病という病気の特徴からくるものです。

歯周病の診断は、臨床においては「歯肉の炎症」と「付着の喪失(歯周組織の破壊)」があることをいうからです。

このうち「付着の喪失(歯周組織の破壊)」については、少なくとも数回、期間をあけて診断しなくてはいけません。

また、「歯肉の炎症」に関しても治療回数が少ない場合はポケット内の洗浄が十分ではないことも多く、”歯肉炎”が起きている可能性があります。

歯肉に炎症が起きていると、辺縁歯肉が腫れていることがあり、ボリュームが増していることがあります。その増えた歯肉からポケットの計測をした場合、ボリューミアップした分だけポケットが深く計測されてしまうことがあります。この偽陽性を「ポケットが深い」と診断されてしまうと病態の把握がズレてしまいます。

つまり、これらの理由によりいきなり「あなたは歯周病です」ということにはならない訳です。

歯周検査の誤解

歯と歯茎の歯周ポケット(または歯肉溝)にプローブという計測用の器具を入れて、その「深さ」について説明を受けた経験があるかと思います。このことから、この検査では歯周ポケットの深さを計測しているのだろうとお思いになるかもしれませんが、正確には少し違います。

歯周ポケットの底については、「解剖学的歯周ポケット底部」と「臨床的歯周ポケット底部」という考えがあり、実際にそれらは異なったものを指します。

「解剖学的歯周ポケット底部」とは接合上皮の最根尖部のことをいいます。すなわち、接合上皮と歯肉結合組織の境界を意味します。

厳密にはこの部分までを正確に計測を行い、

「解剖学的歯周ポケット底部」=「臨床的歯周ポケット底部」

としたいところなのですが、実際には健康な歯肉ではプローブの先端は「解剖学的歯周ポケット底部」まで届きません。一方、炎症を起こしている歯周組織においてはプローブの先端は「解剖学的歯周ポケット底部」を超えて深い位置まで到達してしまいます。

つまり、プロービングと呼ばれる歯周ポケットの検査では、歯周ポケットの深さを正確に測定することは出来ません。このことは古くから言われており、

1:プロービングで組織学的なアタッチメントレベルを正確には測定できない
2:炎症の程度がプローブの挿入程度に大きく影響する
3:歯肉溝の深さは臨床的に測定されたものと組織学的なものは明らかに異なる

と、結論づけられています。

では何を診ているのか?

歯周病研究でよく用いられる指標として「臨床的アタッチメントレベル」というものがありますが、いわゆる正常値が存在しないので臨床では省略されることが多いです。また計測が困難であるため用いいられることは少ないです。

では、プロービングが歯周ポケットの深さの計測をしていないのであれば、一体何を診ているのか?ということになりますが、それは

「プロービング圧に対する組織の抵抗性」

を診ています。そして、その時の出血(BOP)を観察しています。

この時のBOPは「有無」を診ているのであって、その量や質によって留意点が変わるということはありません。BOPがあれば炎症を疑います。

また、プロービング・ポケット・デプス(PPD)がわずかな改善しか見られないのに対し、BOPが消失したなどの場合ではポケット底部に炎症が残存しているなどのことが考えられますから、どの検査であっても同じように、検査結果を「読み込む」ということにも技術が必要になります。また、歯周ポケットが何mmあるのか?ということは、そこに生息出来る歯周病原菌の種類や配分などに影響をもたらすかもしれないので、深さを全く無視するということでもありません。

歯周治療のゴールを考えた際に、最も重要なこととして「歯周炎の進行を止めること」ということを考えるべきだという結論をもたらすのですが、このことは断面的な結果だけでは不十分です。BOPのみられた部位でどれだけ歯周組織の破壊が見られたのかという縦断的な視点が必要になります。またBOPの見られなかった部位ではどれだけ進行が抑えられたのか?という視点も必要になります。

BOPは歯周病の進行の指標ではありますが、完全なものではありません。しかし、プロービングとプロービング時の出血の確認の他に、歯周病に対して有効な検査は今のところありません。

現在のところ、BOPがなければ付着の喪失が起こらない確率が高い、陰性的中率の高い検査になります。

これはどの検査についても言えることですが、検査の長所短所を把握して扱いに長けているほどその診断は正確になります。形式的に行なっている者が習熟していることは少なく、むしろ習熟すればするほど考察に時間がかかるので、同じ正確性の高い診断をした場合の速さを比べれば圧倒的に早くて正確ですが、適当な診断と比べると明らかに遅いです。

このことは、少し受診してみないとわからないことです。このことも”ショッピング”の注意してほしい点になります。