歯肉マッサージ

患者様より、塩で歯茎をマッサージしていたら出血が治った、腫れがなくなった、という話をたまにお伺いします。多くの場合、プロービングという検査をすると出血は治っていないのですが、他人任せで責任まで押し付けてくる人が多い中で、自分で解決を試みようと工夫をし実行もして努力するその姿勢には頭が下がります。炎症がひいたように感じられるのは、腫れがひいたと感じるのは、おそらくは、収斂作用かマッサージするつもりで熱心に磨いたおかげでプラークの除去が達成され、一部の炎症がひいたのだろうと思われます。

先人の素晴らしい知恵の中で砂糖漬けや塩漬けがあるように、それらには細菌の繁殖を抑える作用があるようです。ただ、それらには漬けるほどの量と時間を要する場合が多く、口腔内の環境と清掃程度で同じことが達成できるかどうかには疑問が残ります。

歯肉マッサージ

現在の地に開業する以前から、歯科医院で歯肉のマッサージを施術する方には「文献を持ってきてください」とお願いしていました。しかし、どなたも文献を見せてくれたことはありません。なので、私にも歯肉マッサージの有効性はよくわかりません。少なくとも、歯ブラシによる歯肉マッサージのレベルでは効果がないということは明らかになっています。ただ、わからないので有効かもしれません。でも、そこまでのものということでもあります。

わからないですから、どうしても歯肉マッサージを施術したがる術者には「趣味として」「おまけとして」「無料で」やってもらうことにしていました。ですが、一連のやりとりの中で全員が歯肉マッサージをやめてしまうので効果を経過観察することさえ分かりません。分かる範囲のことでいえば、過去に歯肉マッサージを受けた方のフォローをさせて頂いてる症例では残念ながら抜歯に至るケースもありました。

リップマッサージ・歯肉マッサージの効果!?

歯肉マッサージを支持する方のご意見としては、
・疲労物質である乳酸が溜まってしるから流す。
・血行不良を改善する。
・リラックス効果がある
・ほうれい線が消える
・唾液の分泌を促す
などをお伺いすることが多いです。文献はありませんが。

歯肉マッサージ

これらに対して私は、
・そもそも乳酸は疲労物質ではない
・歯肉炎、歯周炎はそもそも充血して血の量が多い
・リラックスはハーブの効果では?
・動的な唾液の分泌より安静時唾液の方が恒常性に重要
(こちらは文献があります)とお答えしています。

疲労物質

乳酸に関してはここでは詳述を控えます。ただ、歯肉は結合組織というもので、筋肉ではないので仮に乳酸が疲労物質だったとしてもその活動にどのような問題を起こすのでしょうか?そして、骨膜という非常に強固な組織によって骨と歯肉は結合しているわけなので、相当な力を加えなければ深部もしくは周辺組織まで影響を及ぼせないと思われます(このことも文献がないのでわからないことですが)。また、歯自体は骨に埋まっています。硬い付着歯肉からの圧力をさらに硬い骨へと伝え、歯槽窩にある歯牙に影響を及ぼせるのか疑問です。

血行不良

血行不良に関しては、もはやそのせいで歯周病になると言い出す人もいたくらいの事態になってきています。しかし、歯肉炎・歯周炎など炎症は出血するくらい血液が多い状態になっています。血管透過性の亢進、血流量の増加が炎症の特徴です。血行が悪く血流量が少ないから歯周病になるというご意見のようなのですが、炎症で血流量が増加していても自然には消退せず慢性炎へ移行してしまう可能性すら示唆されていますから、それだけの問題ではないと思って頂いた方がよろしいように思われます。

リラックス効果

リラックス効果は人によってはあるのだろうと思います。これもハーブ無しでその効果を確認した方がいいと思います。もし有意差がなければ、診療室にハーブやアロマをしてあげる方がいいのかもしれません。少なくとも、ガスや点滴で獣に麻酔銃を撃つかのようなリラックスのさせ方よりかは好感が持てます。

ほうれい線

ほうれい線に関しては、シワ自体がそもそも繰り返し使った部分の跡なので内側から押してどれほどよくなるのか疑問です。洋服に出来たシワもグイッと引っ張れば一時的にはなくなりますが、すぐに元に戻ってしまいます。シワに関しては、一番良いのは使わないことになるかと思います。ただ、そういう訳にはいかないので、歯科で本当に介入したいのであれば、咬合高径の低下の改善や結合組織が増える栄養指導の方が先かなと思います。

唾液

唾液に関しては、そもそも歯肉マッサージが何かの予防になるかのように宣伝されているために議論になってしまいます。食事やマッサージなどで唾液の分泌量が一時的に増えることは私も同じ見解です。これは動的な唾液の分泌であって、粘稠性の高い唾液になります。主に食物に絡ませたりすることが目的とされる唾液です。しかし、実際に虫歯予防のためと少しの歯周病予防のためには口腔内を酸性から中性方向に戻す働きをするものは安静時唾液というものです。これは粘稠度が低くさらさらしていて、そもそも出る唾液腺が異なります。唾液が一時的に出るという謳い文句だけであれば問題はないと思いますが、それで何かの予防になるというとおそらく間違いだと思われます。いずれにしましても、このマッサージに時間をかけるよりも、検査やブラッシング指導やクリーニングに時間を割いた方が効果的であると現段階では私は思っています。