歯質接着の耐久性

どのくらいもつのか?の研究

治療の際によく聞かれる質問に「どのくらいもちますか?」というものがあります。恐い想いをして、痛みを我慢して治療したのですから、もう二度とやりたくないと思うことは自然なことだと思います。また、費やしたお金と時間に対して割りに合う事をしたのだろうか?と考えたくなるものだと思います。少ししかもたないのであれば「やらなければよかったんじゃないか」と考えてしまうことも当然なのかもしれません。今日の医療現場では患者様に説明をし同意を得るというインフォームドコンセントや、科学的根拠に基づいた医療、いわゆるエビデンスが重要視されるようになってきました。しかし、修復物の耐用年数に関するエビデンスは乏しく、説明する際にしばしば困ることがあるこというのが現状です。

そこで、今回は歯質接着とその耐久性についてお話ししてゆこうと思います。修復物付近に再び虫歯が出来てしまうことを「2次カリエス」と呼びますが、これは初発の虫歯と機序が同じだといわれています。初発なのになぜか修復物と歯質の境界部に頻発するという疑問はあるものの、嗜好品・歯磨きの熟練度・定期検診の受診の頻度・ブラキシズムなど様々な要因によって耐久性や再び虫歯になる頻度については個人差があるということは大前提として、それでも大まかな数値を挙げることは意義があると思います。なお、耐用年数はそれを保証するものではありませんし、むしろ交換の時期である可能性も含めて考えるものだと思って頂ければ幸いです。

修復物

修復物はどれくらいもてば成功か?

ある研究で修復物の希望耐用年数を調査したものがあります。これによると、20歳前後の男女のうち半数以上が「一生もってほしい」と希望していることが分かりました。この結果は他の年齢層とは著しく異なる結果となりました。一方、その他の年齢層では20年もてば満足であるという人数が全体の80%になることが判明しました。「虫歯の治療は何年もってほしいですか?」という文言だけで公開されているわけで、質問の方法や試験場の雰囲気、術者との関係性などその他の要因んによってもこの数値は変動するように思われますが、希望ということであれば長期間もってほしいということは変わりがないように思われます。

また、そこで実際の耐用年数に関する憶測値についても調査したものがあります。「虫歯の治療は実際に何年もっているとおもいますか?」という内容の質問です。この結果は意外にも、歯科医学的な知識が少ない人の方が5年以下と答え、その割合は50~60%になりました。一方、歯科医学的な知識の多い層では憶測できる使用年数は5〜10年と答え、その割合は70~80%を占めていました。

希望耐用年数を50年以上という長いものを望んだ若者でさえ、許容できる使用年数となると10年とする割合が80%を占めました。「虫歯の治療は少なくとも何年もてばいいですか?」という質問です。歯科的知識の豊富な群においては許容できる使用年数を5年と答えた割合が半数以上になりました。

これらの結果を踏まえて、この論文では修復物が10年もつことを目指すことが歯科医師と患者の良好な信頼関係を築くことに繋がるだろうといっています。私も同様に10年はもつことが望ましいと思います。ただ、論文の場合、複数の議題について同時に調査を入れてしまうと不悪定要素が入り込むなどして目的のものについての結果から遠ざかってしまうことが考えられます。ですので、意図的に少ない比較対象で行っている訳ですから、この論文だけで「はい、10年ですね」と結論づけてしまうのは早計かと思われます。実際には、材料の選択、残存歯質の量、歯髄の状態、プラークコントロール、ブラキシズムの有無、処置歯の種類、対合歯の状態、骨格タイプ、嗜好品など様々な要因によって臨機応変に対処しなくてはいけないだろうと思います。例えば、ハイアングルケースでAngle 1級かつ対合歯が入れ歯の場合は、咬合による修復物の劣化が遅くなる可能性があります。咬合接触が少ない分、プラークがたまる可能性があるのでプラークコントロールの良し悪しも検討材料になります。また、修復物の厚みや咬合接触位置によっても材料の疲労度が異なるはずなので、そのようなことを総合的に判断して耐用年数を検討する必要があるのではないかと思われます。

また、一番に考えるのは患者様の希望です。処置を望まなければ治療しないことも治療のうちなのかもしれません。また、齲蝕の進行速度や位置、口腔内環境や顎口腔機能の回復、それらに伴う患者様のQOLの向上が優先的に検討されるべきものであると考えます。次回は、実際に修復物がどれだけもっているのかについての研究結果をみてゆきたいと思います。