無機質とフッ化物の反応

無機質の特徴

全ての無機質は、あらゆる温度の水の中であっても不変固有の溶解性を持っています。純粋では初期においては比較的早い傾向をもっており、結晶のイオンが溶液中に蓄積するにつれ遅くなります。そして、最終的には基本的な溶解は終わり、イオンの交換は継続するものの平衡状態となり、いわゆる飽和状態というものになります。

質量作用の法則により、溶液が各無機質に対して飽和であるかどうかは溶解度積(以下、KSP)の原理から決定することが出来ます。このKSPが飽和でイオンの活性と均衡が取れている場合に平衡状態であるといえます。この平衡状態では例えばハイドロキシアパタイトではKSP=7.41×10-60です。これより数値が小さくなると溶解し始めます。エナメル質は炭酸塩を含有するとこのハイドロキシアパタイトを溶解しやすくなります。つまり、KSPが上昇するということです。一方、フッ化物を含有するとKSPは下降します。フルオロアパタイトなどはKSP=3.2×10-61となり、ハイドロキシアパタイトよりも溶解しにくくなります。

これは論文の捏造でも有利な見せ方でもなく、単なる法則と原理によって導き出した化学の計算のお話です。この単純な計算によれば、フッ化物の作用によって無機質であるエナメル質は溶解しにくくなるようです。

ハイドロキシアパタイトが溶解する時に溶液中にフッ化物が存在すると、フルオロアパタイトとフルオロハイドロキシアパタイトに関して過飽和となります。この時、アパタイトが溶解する際にはそれに含まれる炭酸塩は放棄され、フッ化物が再編入されます。炭酸塩が減少してくると溶解も減る傾向になりますから、フッ化物含有の溶液の全般的な効果として、エナメル質から放出されるカルシウムを減らすというものがあります。このことより、エナメル質と反応させるフッ化物の濃度は高濃度よりも低濃度の方が齲蝕を減らすには有益であるという見解になっています。

フルオロハイドロキシアパタイト

フッ化物イオンがエナメル質と反応するとハイドロキシフルオロアパタイトに、もしくはフッ化カルシウムの形成がみられるようになります。フッ化物濃度が50ppm以下で酸性環境にある場合、フルオロハイドロキシアパタイトを形成します。このフルオロハイドロキシアパタイトはエナメル質の最外層に集中します。中性条件下ではフルオロハイドロキシアパタイトの形成は遅く、これを喪失させるような摩耗や溶解のペースに追いつけなくなります。つまり、フッ化物配合の歯磨剤を使用した徹底的なブラッシングは長年のうちにエナメル質表層のフッ化物含有量を減ずる場合があります。一方、プラークの存在下や隣接面などではエナメル質表層のフッ化物含有量は多くの場合に増加傾向を示します。虫歯の少ない人の場合、エナメル質に取り込まれるフッ化物の含有量は歯の石灰化時に量や萌出後の摩耗量によって変わってきます。しかし、虫歯の多い人は頻回なpHの低下により、フッ化物の含有量は多くなる傾向にあります。このフルオロアパタイトを形成するには過飽和状態である必要があり、pH4.5以上の時にその条件が満たされます。pH4.5未満になると不飽和状態となり溶解してゆきます。

フッ化カルシウム

フッ化物濃度が100ppm以上の時にフッ化カルシウムが生成されます。フッ化物濃度が高ければ高いほどフッ化物カルシウムが形成されます。これは歯に局所的なフッ化物処理を行なった場合にみられ、NaFやフッ素配合歯磨剤の使用時にみられる反応です。このフッ化カルシウムもpHの影響を大きく受けます。pHが低い場合にはエナメル質の溶解度が高くなります。この時の溶解によるカルシウムの溶出はフッ化カルシウムの形成に供給されます。このフッ化カルシウムに対して唾液を飽和にさせるには、フッ化物濃度を生理学的な状態からおよそ100倍増加させねばなりません。しかし、そのことは難しいので、口腔内では常にフッ化カルシウムは溶解していると考えられています。フッ化カルシウムがフッ化物の一時的貯蔵庫として働き、常に溶解することによって周囲のフッ化物濃度レベルを維持していると推測されています。この溶解は通常の歯面では1日以内で消失するとされていますが、う蝕内やプラーク中では何週間も残存するといわれています。正常条件下では数日後、フッ化物濃度は生理学的レベルに戻り、科学的痕跡は全て消失してしまいます。しかし、その後数ヶ月、齲蝕発生率が減少するという現象も観察されています。

このことから「フッ素は虫歯予防に効果がある」としてしまうと結論づけてしまうことは難しいと思われます。そもそもメカニズムベースで話を進めてしまうと実際の口腔内での変化と乖離してしまうこともあります。このことは、これだけの話を積み上げても”正解”とすることは難しいということです。ですから、フッ素に関して100年以上も議論がされている訳で、いとも簡単にダメと結論づけられてしまうのはむしろ背景がなく浅はかな印象を私は持ちます。

無機質とフッ素