虫歯の層構造とは

接着システムの接着性を判断する上ではいくつか重要な指標がありますが、一般的には接着強さはよく用いられます。しかも、近年になって微小な接着面においても接着強さを計測出来る微小引張り試験法が多用され、局所についての測定が可能になったことから、構造や性質の異なる部分についても調べることが出来るようになりました。そのおかげもあり、エナメル小柱の走行や象牙細管の走行、象牙質の深さなども接着強さに影響が及ぼされることが分かっています。ただ、接着に対するこれらの実験で得られたデータの多くは、主に齲蝕のない歯冠部健全象牙質に対する接着強さのものが多いです。しかし、実際の臨床においては齲蝕などによって何らかの組織学的変化を受けていることが多く、データとは多くの点で異なってきます。そこで今回は、齲蝕の影響を受けた歯質に対する接着についてお話ししてゆきます。

Fullerの分類

「虫歯」と一言で表現されてしまうことが多いのですが、実は齲蝕の影響を受けた象牙質は細菌の侵入・脱灰・生物学的な反応によりさまざまな層構造を呈しています。Fullerは病理学的な特徴で齲蝕を分類しています。歯冠表層から歯髄側へ向かって

多菌層
寡菌層
前駆菌層
混濁層
透明層
生活反応層

となっており、時にさらに歯髄側においてデンティンブリッジ(第二象牙質)が形成されます。

齲蝕の分類

層の特徴

多菌層・寡菌層・前駆菌層が細菌が侵入・感染した層になります。この層は細菌が産生する酸や分解酵素によりアパタイトが脱灰されていて、有機質も溶解の影響を受け軟化しています。混濁層は細菌は存在しないものの酸の影響で一部が脱灰を受け軟化していて、副産物により着色しています。いわゆる虫歯の治療においては原則として細菌感染の完全な除去が目的となることから、最低限として前駆菌層までは除去されることが望まれます。ただ、軟化した象牙質への接着性を考慮すると混濁層の一部の軟化した部分を除去することも検討しなくてはいけません。

細菌侵入の前縁は一部が脱灰され着色した層の手前にあり、着色層の直下には健全象牙質よりも硬度の高い層が存在することが明らかになっています。そのこともあるのか、筆者が新人の頃は、虫歯は柔らかい部分を除去すれば良いと指導されていました。ただ、実際には切削器具を用いて硬さの判定をすることは人間の知覚では困難だという文献を読んでいたので、検知液による判定を行なっていました。正確には前駆菌層のみならず混濁層にも軟化している部分があることから、硬度の違いによる切削範囲の判定はオーバートリートメントになる可能性を含んでいたことが分かりました。

着色層直下の硬化した層は、齲蝕反応によりリン酸カルシウムの結晶が象牙細管内に沈着して出来た硬化象牙質になります。ここでは象牙細管が閉塞されて象牙細管の形状が確認出来ないほどになっています。そのような状態になると象牙質は均質透明に見えるので透明象牙質とも呼ばれています。

齲蝕反応象牙質

細菌の侵入があり脱灰や有機質の溶解が進んでいるために再石灰化が出来なくなってしまった齲蝕象牙質第一層と、細菌の存在はなく一部の脱灰のみで再石灰化が可能な齲蝕象牙質第二層と分類することもあります。これは臨床においては齲蝕検知液によって判別するものです。Fullerの分類においては第一層と第二層の境界部は前駆菌層と混濁層の間に相当し、視診では着色層中にあたります。罹患歯質の除去後に露出する象牙質は着色層や混濁層または部分的に透明硬化層になります。これらの象牙質は齲蝕の影響を受けていることから齲蝕影響象牙質あるいは齲蝕反応象牙質(caries affected dentin:CAD)と呼ばれ、臨床においてはここが接着の対象となります。次回は、この齲蝕反応象牙質(CAD)との接着について詳しくお話ししてゆこうと思います。