血糖値について その1

血糖値

歯科疾患における2大疾患といえば「齲蝕(虫歯)」と「歯周病(歯槽膿漏)」になります。これらに対して糖質は、プラークの成熟を介して、そのどちらにも影響を及ぼす非常に厄介なものです。また、その影響は腸管をはじめ多くの器官へも及び、免疫力やコラーゲンの糖化など、様々な生体にとって比較的不都合な問題も招きます。

10年ほど前では「歯周病は糖尿病のリスクファクターである」といわれていて、合併症のひとつのように分類されていました。けれども、近年では歯周病の改善がHbA1cなどの項目への影響を与える可能性があることが示唆されています。

また、従来は糖尿病はインプラント治療の相対禁忌とされ積極的な治療は避けられていたのに対し、インプラントバブルを迎えるとHbA1cの安定がみられたら治療可能という解釈に代わりそれ以前より積極的に行われるようになりました。その結果、インプラント体の脱離のお話をよく聞くようになり、再治療・再埋入の話題が増えたように思えます。(しかしながら、そのようなケースの報告義務がないためか、インプラント成功率に関しては依然と数字に変更はないなどの不思議な現象も起きています)

このようなケースを聞くたびに、HbA1cのみによる糖尿病の判定方法や、糖尿病の中での病態の細分化など、もっと細かいガイドラインを引かなくてはインプラントも危険なのではないかと思っていました。

そのような中、

2017年にBMJ(旧名British Medical Association)に「HbA1cと空腹時血糖(FBS)を基準にしたスクリーニングは不正確で糖尿病患者の減少には繋がらない」という記事が載るなど、血糖値を取り巻く様々なものが大きく動こうとしているようです。

そこで今回は、歯科でも見逃すことのできない血糖値についてお話しします。

糖尿病の診断基準

2016~2017年版の「血液検査による糖尿病診断基準」の一部を抜粋しますと、

1:早朝空腹時血糖値 126mg/dL以上
2:75g OGTTで2時間値 200mg/dL以上
3:随時血糖値 200mg/dL以上
4:HbA1cが6.5%以上

とあり、このうちのいずれかが確認された場合は「糖尿病型」と判定する。となっています。これに加えて

5:早朝空腹時血糖値 110mg/dL未満
6:75g OGTTで2時間値140mg/dL未満

が確認された場合は「正常型」と判定され、どちらにも属さないものを「境界型」と判定する、となっています。

この後、さらに「糖尿病型」は判定が加えられ「糖尿病」と「糖尿病の疑い」の判定がされます。

グリコヘモグロビン(HbA1c)とは

タンパク質の多くはグルコースと共に共存すると、非酵素的に糖化(glicosylation)を受けます。

たとえば、構造タンパク質として重要なコラーゲン。結合組織では皮膚・腱・骨・軟骨・歯の象牙質やセメント質、また結合組織以外にも肺・肝・角膜などほとんど全ての組織に存在します。

このコラーゲン分子のアミノ酸組成は1/3がグリシンというもので占められていますが、このグリシンは糖化の影響を受けやすいものとして知られています。糖化が進むと骨折しやすくなったり身体の柔軟性が低下したりするなどの症状がみられるようになります。

循環血中においては、赤血球内のヘモグロビンやアルブミンをはじめとする多くの血漿蛋白が糖化され、その程度は血糖値に左右されます。また、糖化された蛋白は血中にとどまる性質があることから血糖値を総合的に評価する指標としてグリコヘモグロビン(HbA1c)が用いられています。

グリコヘモグロビンの血中半減期は1〜3ヶ月とされています。

ヒトヘモグロビンは4量体を構成するサブユニットの種類により、主成分のHbA(α2β2)とHbA2(α1δ2)とHbF(α2γ2)に分けられます。HbAには陽イオンクロマトグラフィーにより分離される数%の修飾成分であるHbA1が含まれます。

HbA1はグルコースがヘモグロビン分子のβ鎖N端末のバリンに非酵素的に付着しaldmineになります。aldmineはAmadori転位を経てketoamineに変換されます。このalmineとketoamineを含めて広義のHbA1cとする見方もあります。

HbA1cはグルコースが結合したものでHbA1のほとんどを占めます。赤血球の寿命である120日間、末梢循環において緩徐に生成され、血糖値が高いほど生成量が多くなる傾向がみられます。この性質のため、高血糖が持続するとHbA1cは高値を示すといわれています。

血中HbA1cに影響を与える因子

血中HbA1cに影響を与えるものとして様々なものがいわれています。

たとえば赤血球の寿命などは短縮してしまうとHbA1cは低値を示します。赤血球が血中に長く存在していれば糖化が進みその病態を反映させることができますが、溶血性貧血や出血・幼若赤血球の増加がみられる鉄欠乏性貧血のみられる場合には赤血球が長く存在できないからです。

これらの解決として、血液検査でレチクロサイトなども計測する必要があるかもしれません。また、多くの方が鉄欠乏や酸化ストレスによる溶血、蛋白不足による脱水などが予想できるのでHbA1cの低値を示している場合があります。このことは偽陰性の可能性を示すだけでなく、HbA1cの基準値について新たな見解が必要になることを示唆する可能性を含むものかもしれません。

そのほか、

1;高値を示す場合

糖尿病・耐糖能障害・腎不全・鉛中毒・admineの存在・アスピリン・アルコール中毒・HbF・高ビリルビン血症

2;低値を示す場合

低血糖持続時(インスリノーマなど)・溶血性貧血・出血・鉄欠乏性貧血・ホモグロビン症の一部

また、糖尿病の診断におけるOGTTは2時間によるものですが、5時間糖負荷検査を行なった場合に最高血糖が180以上に達した場合であってもHbA1cは5.0を示したというデータもあります。これはHbA1cが平均値をとるデータであるため、最高血糖が180を超えてもその反動で最低血糖が50近くにまで下がっても平均として反映されてしまうためです。