金属アレルギー

金属アレルギー

ネックレスをしていて跡がつくようにかぶれてしまったり、ピアスを着けているその周りが赤く腫れ上がってしまったなど、近年は金属アレルギーの報告がよくみられるようになってきました。これらの症状が金属由来のものであった場合は「アレルギー性接触皮膚炎」などと呼ばれます。

歯科の領域においても金属を用いた治療が広く行われています。日本人の成人のほとんどの方の口の中には、何かしらの種類の金属が使用されています。しかし、それと比べて圧倒的に使用頻度の少ないネックレスやピアスなどの金属アレルギーの方が報告が多いことを不思議に思われるかもしれません。それにはいくつか理由があり、一つは歯科金属アレルギーの症状の現れ方が分かりにくいという特徴があり、もう一つはその特徴の為に歯科での対応が遅れているということがあります。実際、私の学生時代の講義でも思い出すのが難しいくらい話されていなかったと思います。

歯科金属アレルギーの存在が提唱されたのは、古くは1920年代のことです。日本では遅れて1970年代に歯科金属が様々な疾患の原因になりうるという報告がされています。これらに対して、随分と遅れた1990年代になって全国の大学病院で調査が行われて、ようやく歯科金属によるアレルギーは関心が持たれるようになりました。ただ、歯科は材料を使わなくてはほとんどの治療が出来ないにも関わらず、歯科材料に関するアレルギーの実態調査は未だに行われていないのが現状です。(ですので、多くの歯科材料に対するアレルギーの評価は海外のものを使用するしかなく、使われている歯科材料の違いや日本人の体質・生活環境に十分に則したものであるかは議論の余地が残ります。)

歯科金属アレルギーがあまり知られていない理由に「症状の現れ方が分かりにくい」とお話ししましたが、実際にどのようなに症状が出るのかについてお話ししたいと思います。

歯科金属アレルギーの症状の現れ方

世界で最初の歯科金属アレルギーの報告は1928年にされています。その時は口腔内アマルガム中にある水銀による口内炎と肛門周囲炎について報告されています。さらに、1983年には口腔内金属がイオン化したものが粘膜吸収されて遠隔領域に影響を及ぼすという報告がされています。

また、チョコレートなどのニッケルを多く含む食品がアレルギーを起こし、ニキビや湿疹の原因となっていることはよく知られています。

これら体内に吸収される微量金属は、通常その大部分は糞尿中に排泄されます。ただ、ごく一部は汗や乳汁中などに排泄されることも知られていて、このことが皮膚炎と関連が疑われる要因の一つとなっています。つまり、歯科金属が口腔粘膜に接している部分にのみ反応が出るアレルギー性接触皮膚炎様の症状の頻度は高いものではなく、むしろ遠隔領域の皮膚に症状が出ているという特徴がみられます。

おそらく、歯科金属アレルギーの多くは、口腔内の金属が溶け出してイオン化し、口腔粘膜や消化管から吸収された後に全身へ運ばれると思われます。そして、汗などを介し皮膚などに症状を現す「全身性接触皮膚炎」であるだろうと思われます。

ただ、その発症頻度はそれほど高いものではないと考えられています。また、掌蹠膿疱症といわれる皮膚症状に対し、第一選択になる治療方法は扁桃腺摘出術ことからも、慢性炎症も疾患の原因の一つとして考えることが出来ます。全身性接触皮膚炎の原因とされるアレルゲンについても、あらゆるものが想定されていて、たとえ口腔内に限局した病変であっても他の全身性疾患の可能性がないとは言い切れません。それでも、金属の除去によってアレルギー症状が寛解することもあります。

このようなことから、歯科では歯科金属を原因と特定することが出来ず、また全身的なメカニズムも解明仕切れていない為に歯科金属アレルギーへの対応が遅くなっていることが考えられます。また、遠隔領域への発症のために口腔内しか診ない歯科医にとっては判断しにくく、関連も明確ではないため診断しにくいということがあります。そして、今まで良いと思われた治療のほとんどに危険性があるということ自体にも受け入れがたいものがあるのかもしれません。未だに従来の治療方法を信じて続けている先生もおられます。

そのような中、保険診療報酬の改定では義歯のニッケルクロムの使用が認められなくなり、臼歯部にCAD/CAM冠を認めるなど”メタルフリー”へとシフトチェンジしてきていることも確かです。

s歯科金属アレルギー発症のメカニズム

1:口腔内の歯科金属が何らかの作用を受ける。
ガルバニー反応による金属の腐食、微生物による腐食、擦過・摩耗などによる腐食、応力による腐食などが原因となり金属がイオン化。

2:キャリアプロテインと結合
ハプテン(不完全抗原)である金属イオンが粘膜で吸収され、キャリアプロテインと結合して抗原化します。

3:感作
抗原が血行を介して全身へ運ばれます。途中、リンパ節に取り込まれ抗原提示細胞によって抗原特異的にTリンパ球が感作誘導されます。

4:滲出
金属抗原が結構と発汗を介して皮膚で滲出します。

5:発症
金属抗原が表皮に存在するランゲルハンス細胞によって感作Tリンパ球へと抗原提示されます。これにより遅延型アレルギーとして皮膚症状が発症します。

このメカニズムは接触皮膚炎と異なります。接触皮膚炎は金属抗原が皮膚のマクロファージや抗原提示細胞に取り込まれ、その結果T細胞が刺激され種々のサイトカインを産生することによって発症させます。

アレルギーの原因となる金属

1:金・プラチナ
主に保険外診療で使用される金属ですが、保険材料の合金の中に微量が入っていることもあります。

2:ニッケル、銅、亜鉛
ニッケルは主に義歯の金属部分に使用されます。銅や亜鉛は保険の修復物や補綴物にしようされることもあります。

3:パラジウム
世界人口の約3割gアレルギー反応を示すのではないかといわれていて、西欧の方では使用禁止とする国もあります。また、ニッケルもパラジウムも義歯で使われることがあるのですが、歯科技工士がこれらに反応して仕事が出来なくなったという話もよく聞きます。

4:水銀
歯科金属の中で最もエビデンスレベルの高い報告がされている金属です。日本では水俣病などでその有害性は広く知られています。

5:チタン
チタンはその製錬方法が工業化されてから60年程度です。それから数年後にチタン性のインプラントが開発され、今日のオッセオインテグレーションによるインプラント治療の発展に大きく変化をもたらした金属です。20年ほど前はチタンはアレルギーがないということがいわれていて、ほとんどのクリニックでは金属アレルギー検査を行うことなくインプラント治療が行われ、まさにインプラントバブルと呼ばれるような時代がありました。

しかし、2001年のチタンアレルギーの調査では陽性率が0.9%であったのに対し、2005年の調査では6.4%と陽性率が約7倍になっていました。今後、日常生活や歯科治療などでチタンに暴露される機会が増えることが予想され、チタンアレルギーのリスクが上がることが懸念されています。

また別の報告では塩化チタンのアレルギーは4%ほど認められたが、酸化チタンでは陽性反応はみられなかったというものがあります。2008年のスペインのグループ報告でも酸化チタンがアレルギーを引き起こす可能性は極めて低いと結論づけています。しかし、アレルギーのいくつかの既往のある者に限っては25.7%に陽性反応があったという報告があります。さらに、複数の報告ではチタンアレルギーの症状は男性よりも女性に多く現れているという報告があり、日焼け止めやファンデーションなどに用いられている酸化チタンへの暴露回数が多いことも懸念材料であるとしています。また、近年では酸化チタンと発ガンの関係もいわれています。

近年、インプラント周囲炎の原因が細菌感染以外の要因が関与しているのではないかといわれていて、その要因の一つにチタンアレルギーが含まれている可能性があることを示唆されています。なお、純チタンのブリッジによるアレルギーの報告もあります。

チタンの表面は酸素と極めて結合しやすく、二酸化チタンの酸化被膜を形成します。この酸化被膜は一定の厚さでそれを維持しようという性質があることから不動態被膜などと呼ばれます。これは破壊されてもすぐに
瞬時に再形成されます。このように安定性が非常に高いため、錆びにくくイオン化されにくいのでアレルギーの心配がないといわれてきました。

近年、この耐食性を維持する不動態被膜は非常に薄いのでチタン表面に大きな外力が加わるとダメージを受けるといわれています。これにより不動態被膜の再形成が間に合わず溶出しやすくなることが考えられています。つまり、この作用により錆びてしまうことが懸念されています。