鉄について ~鉄欠乏の症状~

鉄欠乏
1997年、WHO(世界保健機構)は世界人口のうち、約20億人が比較的顕著な鉄欠乏状態であると報告しています。この結果に対して危険な状態であるという認識のもと、わざわざ声明を出しています。

遡ると、1982年にはもう既に世界人口50億人(当時)のうち、少なくとも5億人は鉄欠乏状態にあるであろうということが別の機関より報告されています。数百年と変わらずにいた鉄の不足が、わずか15年で4倍に増えたという驚くべきことになっています。日本でも昭和50年代に入ってからの鉄の摂取量が急激に減少しています。

このように、世界的にも国内においても摂取量の減少傾向が確認されているにも関わらず、健康診断においてはあまり鉄欠乏について触れられることがありません。それどころか、健康診断においては「貧血」と診断されることは珍しい部類に入り、診断がされたとしても適切な追加検査や処置が行われるということは稀なことです。「貧血」を診断しようとするためか「鉄欠乏」についてはあまり関心も持たれていないというのが現状のようです。

しかしながら、鉄は人体において様々な反応に関与するため、その欠乏に対する症状が特定出来にくいほどあらゆる範囲に影響を及ぼします。

今回は、非常に重要でありながらも軽視されがちな「鉄」についてお話ししようと思います。

鉄欠乏の一般的な症状

鉄欠乏による症状のうち、比較的軽微でわかりやすいものには以下のようなものがあります。

・寝起きが悪い
・疲れやすい
・肩が凝りやすい
・湿疹ができやすい
・頭痛や頭が思いことがよくある
・風邪をひきやすい
・洗髪時、毛が抜けやすい
・注意力が低下し、イライラしやすい
・神経過敏
・歯茎からの出血、身体に痣ができる
・胸が痛む
・動機や息切れがある
・むくみがある
・爪が変形し、破れやすい
・食欲不振
・口角炎、口唇炎、舌が赤くスベスベ

これらはほんの一例になります。

鉄欠乏の所見と症状

鉄
さらに鉄欠乏の所見と症状について詳しくみてゆくと、以下のようなものがあります。

1:粘膜や皮膚の萎縮・機能低下

口腔から大腸までの消化管における粘膜や鼻粘膜などに異常がみられるようになります。また、胃液分泌の低下・腸管における吸収障害・下痢・便秘などがみられます。

胃では、萎縮胃・低酸の中年女性はPeterson-Kelly Syndromと呼ばれ5~15%が癌に進行することが知られています。これはピロリ菌の存在下とも同様の所見になります。

口腔では、口角炎・口唇炎・舌の赤味・歯茎の出血などがみられます。

咽頭部では、輪状軟骨の高さに食堂のウエブが形成され、咽頭部違和感や鉄欠乏性嚥下困難などがみられます。

その他、脱毛・スプーンネイル・湿疹・痣・異嗜症

2:精神神経症状

鉄欠乏初期においては易興奮性・集中力の低下・頭痛などがみられます。特に成長初期における鉄欠乏は脳に不可逆的な損傷を与えるといわれています。

慢性期になると神経障害や精神障害が現れやすくなります。その他、記憶力・理解力の低下、痛み生き血の上昇などがみられます。これはドーパミンレセプターD2レセプターの感度低下によるものです。内因性鎮静ペプチドの分解反応を抑制することによるといわれています。

これらは鉄がDNAや神経伝達物質の合成や分解に関与しているので、欠乏により錐体外路系に変化を生じさせるためだといわれています。

また、健常者における原因不明の偏頭痛は、脳の黒質淡蒼球赤核の貯蔵鉄(フェリチン)の欠乏によるものが考えられます。

3:運動機能障害

運動能力そのものの低下ばかりでなく、動悸・息切れ・倦怠感・肩こりなどもみられます

4:心肥大

5:月経異常

6:小児での知能の発達、身体発育の低下、情緒不安定、注意力散漫

7:易感染性

8:甲状腺のT4からT3への変換障害、またはTSHの低下による寒がり、低体温

9:フリーラジカル障害

10:溶血
赤血球の変形能の低下による脆弱化による

11:コラーゲン形成不全

鉄欠乏は慢性に経過することで代償機能が働いてしまうため順応してしまいやすいことが多く、重篤感を持ちにくいので注意が必要になります。また、鉄の欠乏はほとんどの場合にタンパク質欠乏やビタミン類の欠乏も同時になっていることがほとんです。

鉄代謝の評価には、通常

・RBC(赤血球数)
・Ht(ヘマトクリット値)
・Hb(ヘモグロビン)

などが使われていますが、RBCには網状赤血球による数の補填が行われるため正確な評価にはならず、HtやHbなども反応性が悪い場合が多いので、正確な鉄の代謝の評価にはなりません。