齲蝕の臨床判断のばらつき(variation)

臨床判断のばらつき
訪れる歯科医院によって言われる事が異なる。全て終わったと言われて安心して他院で検診を受けたが、また虫歯が見つかってしまう。明らかに虫歯があるのだけれども、一方では経過観察を推奨され、もう一方では修復処置を推奨される。

「若い頃から何十年もお世話になっていたのだけれど、通うのが大変になったので転院しました」というご高齢者の口腔内が、意外にも欠損が多く入れ歯が入っている。

これらの問題は、もはや日常臨床の中で毎日のように直面するものとなっています。治療を受ける立場としては、これらのような判断のばらつきは、歯科治療に対する混乱を持つことになりかねません。

齲蝕すなわち虫歯に関して申し上げれば、その検出や管理における臨床家間のばらつきは、歯科医学における本質的な問題を表しているのではないかといわれています。

歯科医学が科学を名乗るのであるならば、同じ状態であるならば同一の見解かもしくは近似した判断が執り行われることが望まれます。

しかしながら、異なる歯科医師を訪れている患者は、同じ状態にもかかわらず異なる治療を受けることがあり、そのために問題が生じることがあるという指摘がされています。

経過観察から外科的介入まで、選択の可能性のある治療方法が同じoutcomeにならない限り、ある一定数の患者は適切な治療を受けたことにはなりません。

齲蝕の検出や管理方法の決定における歯科医師間の判断のばらつきの程度は、世間に認知されているものよりも、また専門家が認識しているよりも、実際のところは非常に大きなものであり、近年になってようやくこの問題に対する取り組みが行われるようになってきています。

最近、当院の関係者が「〇〇さんが大丈夫と言っているから大丈夫。引き続き様子をみましょう」と言われたものの、経過観察の結果しみるなどの症状が出てきたということがありました。

「〇〇さんが言ったから」というのは判断に採用するものではないのですが、これらの傾向は「セミナー講師の先生が言っていた」「〇〇先生が言っていた」という言葉で未だに非常によく耳にします。

そこで、近年普及したばかりで判断がまちまちに行われている予防歯科を中心に、「判断のばらつき」についてみてゆこうと思います。

歯科医師の診査は一致しない

歯科医師が齲蝕病変を検出する時に生じる大きなばらつきは、この四半世紀の間に専門家によって認識されるようになり、研究の対象にされるようになってきました。

現状においては、判断の相違を記述する満足のゆく方法はまだ開発されていませんが、

・歯科医師グループ間でのpositive decision(一致した決断)
・k統計値
・intraclass correlation ICC

のような歯科医師間の一致のindexによって示す試みが行われています。

Positive decision(一致した決断)の範囲はoutliers(外れ値)やextremes(分布の極値)に依存するので、大多数の一致の範囲を表すことは難しいです。しかし、少なくともある歯科医師間のばらつきの極端な性質を強調してくれています。

偶然をこえた一致を反映するk値は、一致のカテゴリーとして解釈され、

・0.00未満  不十分な一致の状態
・0.00〜0.20 わずかな一致
・0.21〜0.40 まずまずの一致
・0.41〜0.60 中等度の一致
・0.61〜0.80 かなりの一致
・0.81より大きい場合はほとんど完全な一致

ということが提唱されています。そして、ICCにおいても同様の解釈がなされています。

これらを基にして、一致した決断(ositive decision)の範囲を報告している多くの研究では、同一患者または同一歯を検査している場合であっても、歯科医師間の病変の判断にはおよそ3倍の開きがあることが報告されています。

これらの極値(extremes)は少数の歯科医師間での検出の比較においても生じていたこともあり、通常稀な例として考えられるoutliers(外れ値)の結果であるというよりも、ほとんど全ての歯科医師にばらつきが生じるものと考えられています。

研究によっては、X線写真による健全歯面と齲蝕歯面での判断ではかなりの一致がみられました。けれども、k値やICC値が中等度程度の一致を反映していることから、一般的な解釈としては「ばらつき」は広い範囲に行き渡ったものであると考えられています。

不一致が精度とは無関係の状態

多くの研究から、臨床的に齲蝕の検出を行うことよりもX線診査による検出の方が一致する傾向が強いようです。また、エナメル質齲蝕よりも象牙質にまで達する齲蝕の方が、一致は強い傾向にあります。

しかしながら、多くの研究では全ての診断の状態において「ばらつき」があることを報告しています。ただし、これらの研究では同定の正しさの度合いについては扱われることはありませんでした。つまり、検出の精度は問題としては挙げられていません。ここで議論されているのはただ単に、検査者間での相違についてのみになります。

このような観察は、ばらつきが生じる理由を検討することに焦点を絞るために有用です。

意思決定に影響すると仮定された要因

診査時の判断、診療の判断に対する意思決定には「歯科医師の要因」と「患者の要因」が考えられています。

<歯科医師の要因>

・個人の特徴 
年齢や経験、技術や熱心さや勤勉さ、不確実性に対する忍耐と知識、触覚の感度などがあります。「不確実性に対する忍耐」とは何もしないことによる不安を少なくするため、に耐性の少ない歯科医師にとっては介入の確率が増加する、などの状態を招くかどうか

・バイアス
処置の好み、診断技術、修復の有用性、部外者としての経験

・診療の特性
事業、送付体系、規模、指針、人員、設備

<患者の要因>
・歯
知覚的徴候、触診徴候、不連続生、外形、色、硬さ、引っかかり、陰影

・口腔
病歴、唾液、口腔衛生、歯列不正、義姉、歯肉退縮

・患者のレベル
食事、疾患、フッ素の使用、投薬、保険の種類

これらをみてもお分かりのように、判断に影響を与えるものの中には臨床的判断は実際にはこれらの要因によって左右されてしまいます。