齲蝕の診断とリスクコントロール

齲蝕のリスクコントロール

予防歯科が重要であると唱えられて久しいです。「狩猟型」と呼ばれ虫歯を削って銀歯を入れることを繰り返す修復が中心の治療が見直され、「農耕型」と呼ばれるリスクコントロールをメインとする予防歯科が広まってきました。

言い替えますと、従来型の診療は「病気を治療し、その後回復した健康を維持すること」だといわれています。また、予防型の診療は「来院者のし疾病に対するリスクを見つけ、リスクを軽減させ口腔の健康を維持すること」だといわれています。

今回の記事では、なぜ修復中心の治療から予防中心の治療へと移り変わってきたのか?ということを考え、実際にリスクコントロールはどのようにされているのかをお話ししてゆきたいと思います。

修復中心から予防へ

予防歯科がいわれてから久しいとはいえ、従来の修復中心の治療に比べればその期間も症例数も日本国内では圧倒的に少ないといえます。

一方で北欧の国々では予防歯科が盛んに行われ、大きな成果を出したのは間違いがありません。その勢いは日本でも「虫歯になりにくいガム」という非常にインパクトのあるテレビコマーシャルが流れたことによって伝わってきました。

私の記憶では各歯科医院や歯科大学から予防歯科の重要性が言われ始めたのではなく、これらのある種のプロパガンダから広まってきてそれに臨床側が対応してきたような印象があります。

このような側面から見るとこちらの記事と似通う現象であるようにも思え、新しいマーケティングでもあるように思えます。

ただ、予防歯科については歯科医師自身にも納得のゆく話でありますし、再発を防ぎたいという気持ちはもちろんあります。また、従来の治療方法や器具と大きな違いがないので導入もしやすかったことなどから、今日では広く予防歯科が行われるようになってきています。

以前では「歯磨きの指導ばかりで全然治療してもらえない」というクレームが多かったのに対し、近年では「こんなに丁寧に歯磨きを教わったのは初めてです」と言われることが増えました。少し前までの日本人は「一発逆転」「ハイリターン」を望む傾向があったのですけれども、近年は「少しの変化」「安定」を望むようになったという国民感情の変化にも合致した結果、予防歯科は受け入れられたのではないかと言われています。

日本国内においてきっかけとなった大きな出来事は、やはりインプラントバブルの崩壊かもしれません。しかしそれと同時に、2002年にウィーンで行われたFDI(国際歯科連盟)にて「ミニマルインターベンション」についての声明が出されたことも大きな要因にあるようです。

この両者が上手い具合に合わさってくれたおかげで、予防歯科への大きな変換が行われました。

リスクコントロールとは

予防の目的を考えた時、それが健康の維持と増進にあるとすると、リスクコントロールがその目的を達成するために必要な対応だといえます。

つまり、予防の主体はリスクコントロールにあると考えられ、その一方で「予防=リスクコントロールではない」ともいえます。

齲蝕や歯周病が発症することを考えた場合、それは突然に生じるものではなく、齲蝕や歯周病のリスクを持つ個人がそのリスクの状態を一定時間経過したことによって生じたものです。そのため、齲蝕や歯周病を発症させないためにはリスクの検討とコントロールが必要になってきます。また、リスクコントロールが疎かになった結果、治療後の再発にもなります。そして、未治療の部位が更なる悪化を助長することもあるという考えから、治療はリスクコントロールに包含されたものだとみなされています。

齲蝕のリスクコントロールの原則

齲蝕のリスクコントロールの概念で根本にあるものは

・早期発見
・保護観察

になります。これらは齲蝕を発見した際に直ちに治療介入するのではなく、リスクを改善させるために再石灰化が優位な環境に整えられ、維持され、その環境が保護されているかを定期的に観察することになります。

一方。歯周病のリスクコントロールは歯肉炎や軽度の歯周炎の段階で発見し、重篤化させないように早期に治療をおこなうことであるといえます。その意味では早期発見・早期治療であるといえるのかもしれません。

齲蝕の診断においては

齲蝕が存在した場合、修復処置かリスクコントロールのどちらの対応をするべきか判断しなければなりません。そのためには齲蝕の診断基準が重要になってきます。

ただ、齲窩があれば齲蝕とすぐに知ることができますが、齲窩のみが齲蝕ではないので齲蝕の定義を確認したいと思います。

『齲蝕とは、歯面上の歯垢の中で起こる動的なプロセスのなかで、歯の基質と周囲の歯垢との間の平衡関係が妨げられた状態で時間が経過し、最終的に歯の表面から石灰化物質の喪失が生じることである』

つまり、齲蝕を診断するにあたり確認しておかねばならないことは、

・齲窩があるかどうか
・活動性があるかどうか

ということになってきます。また、齲蝕の定義にありますように、齲蝕部位に歯垢があるかどうかは重要な観点となります。これは清掃性が齲蝕の進行の管理に大きな意味があることを示唆しています。これらのことから、歯の種類・部位などによってもリスクコントロールの基準や方法が異なるものである必要があるかもしれないことを意味しています。