インプラントと歯内療法

インプラントにするべきか?

歯の先端に出来る病巣のことを根尖病変といいます。小さなものから1cmを超えて嚢胞になるもの、時には骨を貫通させてしまうものまで様々です。これらに対してどれくらい根管治療で治せるのかという技量によって、抜歯の基準が違ってしまうことは当然考えられます。歯内療法の専門家とインプラントの専門家では明らかに見解が異なるでしょう。

また、レントゲン像では小さな病巣と咬合性外傷との鑑別診断が出来ません。それらは同じように写ってしまうからです。歯内療法の上手な先生だと、病巣が大きくなって歯根嚢胞というものになってしまったものでさえ治すことが出来ます。たとえ歯が破折したとしても、再植して長期的に保たせることの出来る先生もいらっしゃいます。

一方で、インプラント推進派の歯科医師の中には「根の先端に病巣があったら、ほとんど治らないので骨を痛めないうちに抜いてインプラントにした方が良い」という意見の人も多くいます。そのため、小さな根尖病変のうちから抜歯をするということも少なくないようです。

ただ、いくらインプラントが歯に近い機能を要するとはいえ、まるっきり歯と同じということではありません。いずれ詳述する予定ですが、歯には歯根膜という組織があります。一方でインプラントはそれとは異なる様式で骨に結合します。また、歯は、というよりも生体にある硬組織のほとんどは中空構造という形状をとりますけれども、インプラントは違います。これらの違いは応力の違いを生みます。さらには軟組織との結合様式も歯とインプラントでは異なり、多くの研究者がその解明を急いでいるところです。つまり、歯と同様に分かり切っているものではないということです。

歯とインプラントの違い

とはいえ、インプラントも長期的な予後が得られやすくなり、もはや欠損部位への治療方法として確固たるものとなっていることも事実です。それによって、多くの患者様が救われていることもまた確かなことです。問題は、わざわざ歯を抜いてまでしてインプラントに置き換える必要があるのか?必要があるのであればどのような場合なのか?歯の病巣は治療でどこまで治せるのか?ということです。

虫歯であればそのほとんどがインプラントに置き換わることは検討されません。その次の段階である歯の神経のない(なくなる)状態から検討が始まります。これらは、歯の問題と、歯周組織の問題と分けて考えていこうと思います。

生存率では有意差はない

そもそも、歯内療法は最初の治療と再治療では治癒に及ぼす因子が異なります。また、歯内療法の成功基準が極めて厳格なものだったため、この基準のハードルを下げていくつかの評価基準も生まれました。そうであっても、歯内療法の後に10~17年経過したもので良好な結果でなくとも、さらに10年経過観察を延長すると治癒傾向を示すLate Successを起こす場合もあり、その評価は難しいとされています。

一方、インプラント治療の成功率は1998年に行われたトロント会議での基準が採用されています。しかし、そもそもインプラントは多くのメーカーが扱っていて、その種類は豊富で統一基準を設定することが難しいです。また、インプラントの報告の多くは成功率よりも生存率に近い内容で発表されていることから、成功率に置き換えると実際はもっと率が低くなると想定されています。

微小漏洩

歯内療法後、被せ物の治療が行われるのですが、この優劣が予後に大きく影響します。適合状態が悪いと、もしくは被せ物の劣化などによって微小漏洩(コロナルリーケージ)を起こし、だ液を介して細菌感染を起こします。そうすると根尖病巣が出来てしまいます。
この点に関しては、インプラントでも微小漏洩が生じることもありますが、根尖病巣を作ることはないので有利といえるかもしれません。

歯根膜の存在

歯には根の表面に歯根膜という組織があります。このことが様々な生体機能の維持に貢献してくれているのですが、インプラントにはこの歯根膜がありません。歯根膜の存在は、インプラントに対して大きなアドバンテージであるといえます。

インプラント周囲炎

インプラント周囲炎やインプラント周囲粘膜炎といったことが問題となっていますけれども、対症療法の報告は多いものの原因除去療法についてはまだ調査段階で、今のところ有効な報告はされていません。

まとめ

歯にもインプラントにもそれぞれメリットとデメリットがあります。これらは単純に比較していいものではありません。だからこそ、「病巣は治らないから抜歯」という選択ももう一度根本から見直されなくてはいけない基準だと思います。少なくとも、歯は抜いてしまうと一生はえてくることはありません。現段階では根尖病巣の多くはインプラントの適応症とはならないのではないかと考えます。個々のケースに応じて慎重に評価し、様々な要因を吟味した上で、包括的な意思決定において治療が計画されるべきだと思います。